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主文

1被告は,別紙1請求債権一覧表記載の原告らそれぞれに対し,同一覧表の各原告に対応する「請求総額」欄記載の金員,並びにその内金である別紙2平成11年(ワ)第16808号事件請求債権目録1ないし5及び平成12年(ワ)第9589号事件請求債権目録1ないし5の各「1998年5月分」欄から「2002年12月分」欄までの各月欄記載の各金員に対する同各目録「損害金起算日」欄記載の日から各支払済みまで各年6分の割合による各金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1章請求

主文同旨

第2章事案の概要

本件は,被告の機長である原告らが,被告がした機長の管理職長時間乗務手当の改定は就業規則の不利益変更に当たるとして,改定前の長時間乗務手当と改定後の長時間乗務手当との差額を未払賃金として請求している事案である。
第1争点の前提となる事実
(争いのない事実を含む。
争いのある事実については,証拠を摘示した。
争いのない事実であっても,参照の便宜のため,証拠を摘示した箇所もある。
なお,以下において書証を摘示する場合,枝番を含む書証については,特に断らない限り,枝番を含む。)
1当事者等
(1)被告
被告は,国際線及び国内線における定期航空運送事業等を目的とする会社である。
(2)原告ら
原告らは,いずれも被告の運航乗務管理職である機長として勤務している者である。
(3)労働組合
被告には,以下のアからカの労働組合が存在する。
(甲114の(2)。
乙102,証人P1。
一部は争いがない。
ア日本航空機長組合
日本航空機長組合(以下「機長組合」という。)は,昭和61年(1986年。
以下,年については特に断らない限り西暦で表示する。
1900年代,2000年代については,例えば「1998年」を「98年」などと下2桁で表示する。
下2桁が10未満は2000年代である。)8月1日に設立された,被告の機長で組織されている労働組合であり,98年3月時点で組合規約で組合員資格を有する機長の全員である1076名が加入していた。
原告らも,この組合の組合員である。
イ日本航空乗員組合
日本航空乗員組合(以下「乗員組合」という。)は,73年11月22日に設立された,被告の副操縦士,航空機関士及びこれらの要員(訓練生)のうち,管理職以外の者で組織されている労働組合であり,98年3月時点で1361名が加入していた。
ウ日本航空先任航空機関士組合
日本航空先任航空機関士組合(以下「先任組合」という。)は,87年2月10日に設立され,被告の運航乗務管理職である先任航空機関士及び嘱託である航空機関士で組織されている労働組合であり,98年3月時点で118名が加入していた。
エ日本航空客室乗務員組合
日本航空客室乗務員組合は,65年12月23日に設立され,被告の客室乗務職員の一部で組織された労働組合であり,98年3月時点で1266名が加入していた。
オ全日本航空労働組合
全日本航空労働組合(以下「全日航労組」という。)は,69年8月25日に設立され,被告の地上職員及び客室乗務職員の一部で組織された労働組合であり,98年3月時点で地上職員6647名及び客室乗務職員5196名が加入していた。
これは,管理職を含めた全従業員の60.5パーセントに当たる。
カ日本航空労働組合
日本航空労働組合は,66年8月に設立され,被告の地上職員で組織された労働組合であり,98年3月時点で300名が加入していた。
2賃金規程,手当規程の定め
(1)旧賃金規程
98年3月31日まで被告が原告らに適用していた賃金規程(以下「旧賃金規程」という。)では,以下のように定められていた。(甲1)
ア社員区分
被告の社員は,賃金区分上,社員I(事務職群,技術職群,現業営業職群,現業運送職群,現業航務職群,現業整備職群),社員II(電気空調職,自動車運転手職,警備員職,看護婦職,寮務職I,寮務職II),社員III(運航乗務員,運航乗務員訓練生),社員IV(客室乗務員,客室乗務員訓練生),管理職(地上管理職,運航乗務管理職,客室乗務管理職,シニア地上管理職,シニア客室乗務管理職)に区分される(1条)。
運航乗務員には機長,副操縦士,航空機関士があるが,機長はこのうち運航乗務管理職に位置づけられている。
イ管理職の賃金
(ア)管理職の賃金は,基準内賃金と基準外賃金により構成され,基準内賃金は基本給,加給,特別職務給,能力資格手当,客室手当,世帯手当からなり,基準外賃金は管理職調整手当,試験飛行勤務手当,深夜勤務手当,乗務手当,管理職乗務調整手当,管理職長時間乗務手当,深夜就業手当,年末年始手当からなる(3条2項)。
(イ)基準内賃金は当月1日から末日までの分を当月25日に,特殊勤務手当以外の基準外賃金は前月1日から前月末日までの分を当月25日に,それぞれ支払う。
この支払日が休日に当たるときは順次前日に繰り上げて支払う(4条,6条)。
(ウ)運航乗務管理職の管理職長時間乗務手当については,運航乗務員諸手当規程第4章を準用する(69条)。
(2)旧手当規程
98年3月31日まで被告が原告らに適用していた運航乗務員諸手当規程(以下「旧手当規程」という。)では,以下のように定められていた。(甲3の(1))
ア旧手当規程は,社員IIIに対する諸手当の支払に関する事項を定める(1条)。
イ長時間乗務手当について,一連続の乗務において旧手当規程の表1の乗務時間を超えて乗務した場合,その超えた時間について,別紙3のとおり長時間乗務手当を支払う(25条)。
長時間乗務手当の時間単価は,現実に乗務した職種,機種,経験年数別による時間当たり乗務手当単価と現実に乗務した職種別による乗務付加手当時間当たり単価の合計額とする(27条)。
ウ別紙3の見方について(甲114の(1),乙61)
ページ(1)
(ア)シングル編成とは,機長1名,副操縦士1名(2名編成機の場合)又は機長1名,副操縦士1名及び航空機関士もしくはセカンドオフィサーによる編成(3名編成機の場合)をいう。
マルティプル編成(以下「マルチ編成」という。)とは,シングル編成に機長もしくは副操縦士1名(2名編成機の場合)又は機長もしくは副操縦士1名及び航空機関士もしくはセカンドオフィサー1名(3名編成機の場合)を追加した編成をいう。
ダブル編成とは,マルチ編成に機長又は副操縦士1名を追加した編成をいう。
なお,98年4月当時及び99年7月当時(16808号事件提訴時)並びに00年5月当時(9589号事件提訴時)における2名編成機は,B747400,MD11,B777,B767,B737型機の5機種であり,3名編成機はDC10,B747型機の2機種である。
(イ)乗務時間の算定はブロックタイムによる(旧手当規程8条1項)。
ブロックタイムとは,ブロックアウト(航空機が離陸のため車輪止めがはずれた時)からブロックイン(航空機が着陸し車輪止めが入った時)までの時間である。
乗務ダイヤとは,予定する乗務の時間算定に用いられるダイヤをいい,前年実績などにより別に定められている。
(3)機長に対する別紙3の適用の修正(甲4,5)
98年3月31日まで,被告は,機長については,別紙3の(3)のマルチ編成等については副操縦士と同様の取扱いとし,(4)の移行措置については,B747400型機及びMD11型機乗務の場合に,表3の夏期ダイヤの金額を6万7000円とし,冬期ダイヤの金額を7万2000円としていた。
また,被告は,機長の管理職長時間乗務手当の時間当たり単価は,乗務手当月額の65分の1に150円を加算した額としていた。
機長発令年月日,経験年数に応じた乗務手当額に従って機長の管理職長時間乗務手当単価を計算すると,例えばB747400,MD11,B777型機の機長の場合,別紙4のとおりとなる。
(4)旧賃金規程,旧手当規程の改定(甲2,3の(2))
被告は,98年3月16日旧賃金規程,旧手当規程を改定し(以下,改定後の賃金規程,手当規程を「新賃金規程」,「新手当規程」という。),同年4月1日からこれを実施して原告ら機長に適用している。
この旧賃金規程,旧手当規程の改定には機長組合は同意していない。
ア社員区分
管理職にシニア地上管理職,シニア客室乗務管理職が加わったほか,旧賃金規程と同じである(新賃金規程1条)。
イ管理職の賃金
(ア)管理職の賃金は,基準内賃金と基準外賃金により構成され,基準内賃金は基本給,加給,特別職務給,能力資格手当,運航手当,客室手当,世帯手当からなり,基準外賃金は管理職調整手当,深夜勤務手当,乗務手当,先任付加,管理職乗務調整手当,管理職長時間乗務手当,深夜就業手当,年末年始手当からなる(同3条2項)。
賃金の支払日は旧賃金規程と同じである(同4条,6条)。
(イ)運航乗務管理職の管理職長時間乗務手当については,新手当規程第4章を準用する(同71条)。
ウ新手当規程が,社員IIIに対する諸手当の支払に関する事項を定めることは旧手当規程と同じである(新手当規程1条)。
長時間乗務手当について,一連続の乗務において新手当規程の表1の乗務時間を超えて乗務した場合,その超えた時間について,別紙5のとおり長時間乗務手当を支払う(同25条)。
長時間乗務手当の時間単価は,現実に乗務した職種,機種,経験年数別による時間当たり乗務手当単価と現実に乗務した職種別による乗務付加手当時間当たり単価の合計額とする(同27条。
旧手当規程と同じ)。
(5)機長に対する別紙5の適用の修正(甲6)
被告は,機長については,別紙5の(3)マルチ編成等については副操縦士と同様の取扱いとしたほか,別紙5のとおりとするとした(以下,上記(3)の「機長に対する別紙3の適用の修正」からのこの変更を「本件変更」という。
)。
機長発令年月日,経験年数に応じた乗務手当額に従って機長の管理職長時間乗務手当単価を計算すると,例えばB747400,MD11,B777型機の機長の場合,別紙6のとおりとなり,別紙5の(4)の暫定措置によった場合の管理職長時間乗務手当単価は別紙7のとおりとなる。
3手当規程の改定による長時間乗務手当額の減少
原告らは,B747400,B747,MD11型機の3機種の乗務に従事している。
原告らの98年4月分以降各月分の長時間乗務手当について,旧手当規程に基づいた場合に支払われる長時間乗務手当は別紙8長時間乗務手当月別一覧表の「本来受けるべき長時間乗務手当」欄記載の金額を上回ることはない。
他方,新手当規程に基づいて原告らに支払われた長時間乗務手当は,同一覧表の「実際に支払われた長時間乗務手当」欄記載の金額であるから,その差額は同一覧表の「差額」欄記載の金額である。
なお,同一覧表の「支給年月日」欄の各金額が同欄記載の月の前月分の長時間乗務手当額であり,同額が「支給年月日」欄記載の日の支払の対象となるものである。
4原告らの請求額
原告らは,別紙8長時間乗務手当月別一覧表の「差額」欄記載の各金額を各原告毎に取りまとめて別紙2平成11年(ワ)第16808号事件請求債権目録1ないし5及び平成12年(ワ)第9589号事件請求債権目録1ないし5のとおりとし,さらにその年額及び総額を取りまとめて別紙1請求債権一覧表のとおりとし,同一覧表の各原告に対応する「請求総額」欄記載の金員,並びにその内金である別紙2平成11年(ワ)第16808号事件請求債権目録1ないし5及び平成12年(ワ)第9589号事件請求債権目録1ないし5の各月分の各金員に対する「損害金起算日」欄記載の日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めて本訴を提起している。
第2争点
第1の2のとおり,本件変更は,被告の就業規則である旧手当規程が新手当規程に改定されたことによるものである。
原告らは,本件変更により,支払われる管理職長時間乗務手当の額が減少し,その限りでは不利益を被っている。
そして,原告らは,本件変更に同意していない。
したがって,本件変更が原告らを拘束するといえるためには,その変更に合理性があることが必要であり(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決民集22巻13号3459頁,同平成9年2月28日第二小法廷判決民集51巻2号705頁,同平成12年9月7日第一小法廷判決民集54巻7号2075頁),本件の争点は,本件変更に合理性があるか否かである。
第3争点に関する当事者の主張(要旨)
(被告)
1本件変更の必要性について
(1)本件変更に至る経緯
ア構造改革実施の経営上の必要性
(ア)被告における収支悪化の状況
90年代に入って間もなく,わが国の航空業界,とりわけ国際線を主力とする被告は,国内の景気悪化による需要低迷,欧米のメガキャリアを中心とする外国航空会社の日本市場参入圧力の高まり等によりかつてない厳しい競争環境にページ(2)
さらされることになり,被告の経営も悪化した。
被告の86年度以降98年度までの収支の推移は別表Iのとおりであり,73年度以降98年度までの経常損益・営業損益の推移は,別表IIのとおりである。
80年代後半は,好調な営業収益に支えられ,営業外の損失を補った上で250億円から500億円の経常利益を上げた好調な業績の時代であったが,91年度は営業収益が前年よりマイナスとなり,営業損失が129億円も生じた。
91年1月の湾岸戦争に引き続く世界的な不況及び我が国のバブル経済の崩壊という当時の経済状況から,営業収益の増加は簡単には期待できないと考えられたが,営業収益の落ち込みは予想以上で,翌92年度は営業損失が481億円,経常損失が538億円という創業以来最も巨額の赤字を出し,民営化後初めての無配転落を余儀なくされ,その翌年も連続して巨額の営業損失及び経常損失を計上せざるを得なかった。
別表IIのとおり,90年度以前でも営業損失を出したことが第1次,第2次のオイルショック時,羽田沖事故直後と3回あるが,いずれも短期に業績が回復しており,91年度以降のように巨額の赤字が連続するのは極めて重大かつ深刻な危機的状況であった。
その後,主として国際線の旅客数増大により,94年度に営業収益が前年比でプラスに転じ,95年度以降は営業損益も黒字化したが,91年度以降の繰越損失が大きいため,資産売却等の決算対応をしてもなお繰越損失を解消することができず,無配状態を継続せざるを得なかった。
このような状況のため,被告は,早期復配を最重要課題とし,その達成に向けて97年度決算において約1500億円にも上る巨額の資本準備金等の取り崩しを行い,被告本体と一部関連事業の累積損失を一掃した上で,98年度に至って漸く復配することができた。
(イ)航空会社の構造的体質
航空運送事業は,航空機の購入を始め巨額の設備費を必要とし,設備投資に要する借入金に対する支払金利が巨額の営業外損失となる構造的体質を持っいる。
別表Iを見ても,89年度まで毎年200億円台の巨額の営業外損失を計上しているが,その大部分は金融収支の損失であり,航空機の売却等で営業外収益を計上できる場合にその赤字幅が小さくなったり,黒字になったりする。
90年度,91年度では,89年末の時価発行による増資等の結果,受取利息及び配当金が巨額であったため営業外損失も小幅の赤字ないし黒字になっていたが,92年度以降は,受取利息及び配当金が半減する一方支払利息が大幅に増加して金融収支は260億円台から350億円台の赤字となり,92年度では所有株式の売却等により260億円の営業外収益を,93年度では266億円の航空機材売却益を,94年度では220億円の航空機材売却益を,それぞれ計上するなどして,営業外損益を小幅の赤字ないし黒字に戻したという実情であった。
したがって,92年度の経常損失は538億円となっているが,実質の赤字は800億円近くであったもので,95年度以降は資産の売却等による決算対応を行う余力が乏しくなってきたため,金融収支の赤字を補うことができず,再び大幅な営業外損失を計上せざるを得なくなった。
このように,資産売却等の決算対応をしない限り,営業外損失は巨額に上るから,航空会社においては,収支構造上,営業外損失を上回る営業利益を上げることが必須である。
(ウ)営業収益悪化の原因
被告の90年度における営業収入の構造は,別表IIIのとおりである。
国際線の旅客・貨物収入が営業収入全体の65パーセント(うち国際線旅客収入は51.2パーセント)を占めており,その後現在に至るまでこの割合に大きな変化はなく,被告にとっては国際線収入の動向が極めて重要な意味を持つ。
被告の86年度以降98年度までの営業収入の推移は別表IVのとおりであり,国際線の収入は,80年代には順調に伸びていたが,90年代に入ると一転して顕著な下降傾向を示し,90年代半ばに一時上向きに転じたものの,98年度には再び下降している。
被告の86年度以降98年度までの国際線取扱量と収入の推移は,別表Vのとおりであり,この間,旅客数,貨物量はおおむね増加しているのに,収入の増加度合いはそれに大きく及ばない。
被告の86年度以降98年度までの国際線旅客単位当たり収入(有償旅客1名を1キロメートル輸送した場合に得られる収入をいう。
イールドともいう。)の推移は,別表VIのとおりであり,90年度をピークとして以後急激に下降している。
98年度イールドは,90年度に比し35パーセント低下しているが,これは,単純化すれば,同じ旅客数であった場合の収入が35パーセント低下することであり,90年度の国際旅客収入が5732億円であったから,計算上2006億円の収入減となる。
現実には,別表Vのとおりこの間旅客数が1.5倍近く増加したため61億円の収入増になっているが,イールドの低下がなければ2522億円の収入増となるべきものであった。
(エ)コスト競争力強化の必要性
上記(ウ)のように,国際線の旅客数はおおむね増加しているのに収入の増加度合いがそれに及んでおらず,イールドは低下しているから,国際線収入減少の原因は価格の低下にあることは明らかである。
価格低下の原因である,消費者の低価格志向,ファーストクラス等高額商品の需要の減少,価格競争の激化(需要と供給のギャップ,円高)は一過性ではないし,3大空港プロジェクト(関西空港の開港,成田空港の第2期工事完成,羽田空港の沖合展開)がオープンすると,外国航空会社による乗り入れ急増(被告の運営する路線への競合増加)が予想され,また,航空運賃を含めた規制緩和の進展等から価格競争の激化が予想されたから,被告が今後存立して行くためには,価格競争に耐えうるコスト競争力を作ること,すなわち,低価格競争の中でも利益を出せるよう,あらゆる分野でのコストの削減を行うこと,とりわけ被告が独自でできるコスト削減を速やかに行うことが絶対条件である。
被告における営業費用の内訳及びその推移を見ると,80年代半ばまでは半分以下であった固定費が90年になると57パーセントまでを占めるに至った。
基本的には,変動費,固定費の中の機材費は生産量に応じて拡大するものの,その余の固定費(人件費等)は生産量よりも落ち着いた増勢を示し,その結果生産量一単位当たりのコストは低減していくのであるが,80年代後半は固定費が生産量の伸びを上回って拡大しており,健全なコスト構造とはいえず,深刻な問題であった。
84年度以降97年度までの単位当たりコスト(ドル建)の外国航空会社との比較は別表VIIのとおりであり,80年代後半以降は被告のコストは欧米航空会社に比べ3割ないし5割高くなっていた。
被告の81年度以降98年度までのロードファクター(利用率。
L/F),ブレークイーブン(損益分岐利用率。
B/E)の推移は別表VIIIのとおりであり,B/Eは,87年度以降65パーセントを超え,92年度には70パーセントに近い数値になっていた。
単位当たりコストが低いほど,単位当たり収入が高いほど,B/Eは低くなるが,今後はバブル期のような高いL/Fは期待できないから,黒字化するためにはB/Eを60パーセント台半ばまでにとどめる必要があり,そのためには収益の極大化と徹底したコスト削減,とりわけ固定費の削減が不可避である。
イ被告における構造改革諸施策の取り組み
(ア)構造改革委員会の設置
被告は,92年2月に「9296年度展望と9293年度事業計画」を作成,発表し,国際的コスト競争力を強化し,業績を立て直すべく,社長を委員長とする構造改革委員会の設置を明らかにし,同年6月1日,同委員会は構造改革委員会報告を発表した。
同報告は,「収益性を回復するための低ブレークイーブン体制の構築」を最大課題とし,収益力の回復,コスト競争力の向上のためにあらゆる組織,機能を広範に見直して改革を進めることを基本として,事業運営体制,生産構造,コスト構造,販売構造,意識構造について,主要な改革項目を設定した。
改革項目は,事業運営体制については,収支構造安定に向けての事業運営体制を構造的に見直す,生産構造については,収益を挙げ得る構造にするための改革を進める,コスト構造については,投資の見直し,人件費効率の向上,コストの外貨化を主要項目として低コスト体制構築にページ(3)
向けた構造改革を進める,販売構造については,イールドの向上を中核とした収益力強化のための販売構造の改革を進める,意識構造については,これらの構造改革を支える意味で意識構造の改革を行うなどというものであった。
(イ)構造改革諸施策の実施状況
被告は,構造改革委員会報告を受けて,順次構造改革諸施策を実施することとしたが,92年度の収支が創業以来の大幅な赤字になることが明らかになったため,構造改革施策を前倒し,深化させる必要に迫られ,93年1月「9394年度サバイバルプラン」を策定発表し,収支改善を最優先し,費用効率化施策に関しては,93年度で1000億円強の費用削減を行い,94年度もこれを継続することとした。
93年度において,1000億円の費用削減と1000億円の投資削減という単年度の目標は達成されつつあったが,戦後最悪の不況が進行する中で,企業の経費引き締めと消費者の購買抑制・低価格志向が加速し,経営環境はますます厳しくなった上,急激な円高によってさらに値下げ余力を得た外国航空会社との競争が一層激化したため,収入規模は前年を大幅に下回り,3期連続の赤字が避けられない状況となった。
そこで,被告は,94年1月,上記計画(「9394年度サバイバルプラン」)を深化させ,第2次構造改革施策を追加した「9495年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」を策定発表し,94年度においてもすべての分野にわたって93年度に引き続き1000億円の経費削減を実施するなどとした。
94年度においては,依然としてイールドの低下が続いており,営業収支レベルでの赤字体質から脱却し得ないという厳しい状況にあることや,収支を回復してきた欧米航空会社との競争が一段と激化することが予想されたことから,被告は,「95年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」を策定し,94年度策定の施策を実行することとし,さらに翌年の「19962000年度中期計画」の中で,21世紀に向けた新たな構造改革「チャレンジ21」を策定し,「早期復配と四者還元体制の確立」を目標として諸施策を実施した。
また,97年3月には,「19972001年度中期計画」を策定発表し,本件変更を含む人事賃金制度の改定等を謳った。
このように,構造改革施策の実施により被告の経営体質は改善されてきたが,97年度後半からの急激な景気後退の影響を受けて需要が大きく落ち込むと経常利益は計画を大幅に下回るというように,景気動向等の想定を超える事態に十分対応できるまでには強化されていなかった。
そこで被告は,98年度に向けて,「19982001年度中期計画」を策定し,上記「早期復配と四者還元体制の確立」の達成を最重要課題とし,2001年度までにさらに単位当たりコストの10パーセント以上の削減を図ることとした。
以上のように,被告は,92年6月の構造改革委員会報告以来,社内のあらゆる組織や機能について全分野を対象とした構造改革施策を推進してきた。
92年度以降被告が進めてきた構造改革施策の概要は別表IXのとおりであり,その成果は,別表VIIIのとおりB/Eの低下という形で現れている。
ウ構造改革施策の一環としての人件費効率向上諸施策
(ア)基本的考え方
人件費は,91年度で約26パーセントと営業費用中の最大の項目となっており,低コスト体質を構築するためコストの削減を徹底するに当たって,人的生産性の向上,適正人件費水準の実現による人件費効率の向上は避けることのできない改善施策であった。
被告の人件費効率向上施策の基本的考え方は,国際コスト競争力の強化を図るために,「人員効率の向上」と「単価水準の適正化」の両面から人件費効率の向上を図るというものであり,前者の施策は,定員の見直し,勤務基準の見直し等により効率の向上を図る施策であり,後者の施策は,社会的調和の中でそれぞれの賃金項目に沿って見直しを行い,水準の適正化を図る施策である。
「人員効率の向上」について,被告は,過去,機材の大型化や路線の長距離化等によって生産性の向上を図ってきたが,これらはもはや限界にあり,物的側面からの生産性の向上は期しがたい状況にあり,被告がコスト競争力の向上を図るためには,人的側面からの生産性の向上を検討していかざるを得なかった。
また,「単価水準の適正化」について,被告の賃金は,世間相場との対比,競合他社との比較のいずれにおいても高い水準にあり,競争力向上のために水準の適正化が不可欠であった。
また,被告における人件費生産性は外国他社に比して低く,国際コスト競争力の向上のために,人件費生産性を上げる必要があった。
人件費の生産性を示すATK(有効トンキロ。
生産量を示す。)当たりの人件費の他社との比較を見ると,被告の91年度実績が23円であるの対して,外国他社はルフトハンザ航空を除き20円あるいはそれを下回る状況であった。
そこで,構造改革委員会報告は,ATK当たり人件費を93年度において20円とするという目標を設定したが,イールドの低下と競合他社のコスト改善の状況からして,被告は,94年には97年度までに15円以下とするとの目標に切り替え,その達成を目指して人件費関連施策を実施することとした。
その結果,ATK当たり人件費は,97年度には15.2円にまで改善されたが,その間国際線のイールドが約30パーセント低下し,旅客数は伸びるが収入が伸び悩むという厳しい経営環境にあり,なお一層のコスト削減が求められたため,「19982001年度中期計画」では,「2001年度までに単位当たりコストの10パーセント以上の削減」を目指して諸施策の実施を期することとした。
(イ)人件費関連施策の内容
被告が92年度以降実施してきた人件費関連施策の内容の概要は,別表IXの「コスト構造」欄中,「人件費効率の向上」欄記載のとおりである。
91年度から99年度までのATK,営業費用,人件費の推移は別表Xのとおりであり,ATKの増加に比べ,営業費用はわずかな増加であり,人件費は18パーセント減少し,ATK当たりの各費用の数値も大きく改善しており,構造改革施策の効果は明らかである。
人件費関連施策について,賃金制度に関連していえば,次のとおりである。
a93年11月の改定及びそれに至る経緯
全職種に共通してベースアップゼロ,臨時手当の削減等を行ったが,抜本的な賃金制度の見直しは見送った。
主として各職種毎に諸手当の再編を行った。
一般職運航乗務員に関しては,暫定手当と特別乗務手当を廃止し,長時間乗務手当を新設した。
管理職である機長に関しても,同時に暫定手当を廃止し,管理職長時間乗務手当を新設した。
廃止及び新設の理由は,以下のとおりである。
61年5月,被告は,乗員組合との間に,シングル編成による連続24時間中の乗務時間,勤務時間の制限等に関する協定を締結し,例えば予定着陸回数1回の場合には乗務時間9時間,勤務時間13時間を超えて予定しないことにしていたが,乗務時間9時間を超える運航のケースが生じたため,65年12月以降,上記の制限を超えた時間について運航乗務員に特別乗務手当を支給することとした。
70年8月,被告は,機長を管理職と位置づける機長管理職制度を実施し,機長を特別乗務手当の支給対象外とし,これを含む他の諸手当に代わるものとして管理職乗務調整手当を支給することとした。
90年,被告は,機長を含む運航乗務員に対し,特定の国際線にマルチ編成で乗務した場合は,暫定手当を支払うこととした。
これは,本来勤務協定上はマルチ編成による運航が可能であるのに,暫定的にダブル編成で運航していた路線について,被告がマルチ編成による運航に戻すこととしたところ,乗員組合が指名ストライキによって乗務を拒否する事態となったことから,事態の早期解決を図るため,乗員組合がマルチ編成にすることに同意する代わりに被告が当分の間暫定的に定額の手当を支払うとしたもので,この暫定手当は,賃金規程や協定にも定めのない,名称どおりの暫定的なものであった。
そこで被告は,93年11月の賃金制度の改定において,一般職運航乗務員について,暫定手当の整理・解消というページ(4)
懸案事項を解決し,どのような路線,編成にも対応できる整合性のある支払方法とするとともに,同年11月に導入した新勤務基準を円滑に行うために,暫定手当と特別乗務手当を廃止して長時間乗務手当を新設し,あわせて移行措置を設け,機長に関しても,暫定手当を廃止して管理職長時間乗務手当を新設し,移行措置を設けたものである。
なお,この改定では,機長の管理職乗務調整手当については,今後見直すこととして,存続させた。
b96年4月の改定
全職種に共通して,定期昇給制度を見直した。
これは,被告の定期昇給額が世間一般より大きいことから,世間水準との調和を図り,将来的な人件費の伸びを一定程度適正化するという趣旨に基づくものであるが,この影響は相対的に地上職,客室乗務職に大きかった。
c96年10月の改定
主として客室乗務職の乗務手当を再編した。
運航乗務職に関して,経験1・2年目,3・4年目の機長の乗務手当の見直し,管理職乗務調整手当を経験年数に応じた手当額とする見直しを行った。
運航乗務職について乗務手当の改定をしなかったのは,93年11月より実施されてきた勤務基準改定(新勤務基準)の効果を見極める必要があったこと等の事情による。
(ウ)98年度に実施した人件費効率向上施策
被告は,別表IXの「コスト構造」欄中,「人件費効率の向上」欄の「98年度」欄のとおり,98年度に本件変更を含む人件費効率向上施策を実施した。
当時,日本経済全体について明確な景気回復の兆しが見えないどころか,大型金融機関の破綻など経済情勢がより一層混迷度を深める状況の中,被告は構造改革を進めていたが,96年の燃油費高騰を契機として再び収支状況が大幅に悪化し,97年度末には,資本準備金取り崩しにより過去の損失を含めた損失処理を実施した上で経営陣も交代するという非常事態となり,また,決算対応を実施する余力を喪失した状態にあり,危機的状況にあった。
被告では,企業体力を一刻も早く回復させることが急務であり,とりあえず97年度は収支均衡,98年度は250億円の黒字という数値目標を設定したが,その達成には人件費関連施策の実施を含めたコスト削減施策を実施する必要があった。
また,97年度下期特に12月に入って旅客需要の減退が顕著となっており,さらに厳しい価格競争に突入することが想定されたし,ATK当たり人件費はかなり改善されて,ATK当たり全社費用も90年度対比で約20パーセント効率化できたが,熾烈な競争にさらされている国際線のイールドはこの間に約30パーセント低下するなど,未だ営業利益で金融費用をまかなうことすらできないという状況であり,収入単価の下落傾向の加速が必至とみられる状況の下では,生産体制,生産性,単価水準の各側面において欧米各社との人件費格差を縮小するための施策を講じる必要があった。
被告は,98年4月,別表IXの「コスト構造」欄中,「人件費効率の向上」欄の「98年度」欄のとおり人件費効率施策を実施し,運航乗務員については,乗務手当を次のとおり再編成し,関連の諸手当を含めた総合的な見直しをした。
管理職長時間乗務手当の見直しもその一環である。
被告では,機長は,年収水準が3000万円前後と,外国他社との比較,国内年収分布から見て高い水準にあり,又,運航乗務職はそれ以外の職種に比べて年収が高く,職種間のバランスを配慮すべき状況にあった。
a運航手当の新設
月例給与としては支払われていない加給・能力資格手当の各相当額及び特別職務手当相当額を合算し,月額で定める運航手当を新設し,基準内賃金の1項目とした。
b乗務手当単価の見直し
一般職運航乗務員については1時間当たりの乗務手当単価を,運航乗務管理職については乗務手当月額を見直した。
その結果,従来と対比して概ね71.6パーセントの水準となっている。
c乗務手当の算出方法の見直し
暦月の合計乗務時間と暦月の合計就労時間の2分の1とのいずれか多い方を支払対象時間として乗務手当を算出することにした。
d管理職乗務調整手当の見直し
その基礎額となる乗務手当単価を見直した。
ただし,当面の間機長に関しては見直しをしないこととした。
e長時間乗務手当の見直し(詳細は,後述(2)及び2(1)のとおり)f深夜残業手当の改定
乗務手当の再編成の結果,乗務に対する加算部分の基礎額は減額となるが,深夜就業時間全体に対する基礎額は増額となった。
ただし,以上については,長時間乗務手当について暫定措置が定められたほか,移行措置として,運航手当と新乗務手当及び管理職乗務調整手当の合算額が改定前の特別職務給と旧乗務手当及び管理職乗務調整手当の合算額を下回る場合は,98年度においては下回らないように調整し,99年度以降については各年度旧乗務手当の3パーセントを減じた後の合算額を下回らないように保障するとした。
エ外国他社の取り組み等
外国他社においても,レイオフを含む大幅な人員削減や賃金制度の改革等の合理化施策に積極的に取り組むことにより黒字化を図っており,円高とバブル経済崩壊のため外国他社に比し一層深刻な状況下にある我が国航空会社として,被告が外国他社に劣らない経営改革を進め,競争力を強める必要があると判断し,構造改革施策を実施したことは当然の措置である。
また,運輸大臣の諮問機関である航空審議会の競争力向上小委員会は,94年6月,我が国航空企業の競争力向上のための方策について答申を行ったが,その中では,航空企業自らが,固定費を中心としたコストの削減,コストの外貨化等を進めるなどして,低コスト体質への転換及び収益力の強化に取り組む必要があるとされており,被告の構造改革施策はこれと合致するものでもある。
さらに,外部格付会社による被告の評価は厳しいものがあり,本件変更の直前の時期(97年度)においても,構造改革の更なる深化が求められる状況にあったものである。
(2)本件変更の必要性について
ア突出した水準
機長に対しては,従前は,制度上,乗務手当(65時間分の乗務手当相当額),管理職乗務調整手当(15時間分の乗務手当相当額)が,実乗務時間の如何にかかわらず毎月支給されていた。
機長は管理職であり,その処遇に時間管理の観念はないことから,これらの手当が支給されるが,原告らの乗務実績は,98,99年度では60時間にも満たないものである。
長時間乗務手当は,これに加えて支給されるものである上,その額は,長時間乗務手当単価(時間当たり乗務手当単価相当額と時間当たり乗務付加手当相当額の合計額)の2ないし3倍の額であり,例えばニューヨーク線往復で19万円弱となるなど,その水準は賃金制度全体の中でも突出している。
イ世間水準との乖離
長時間乗務手当に類するものは,他の航空会社には存在せず,世間水準とも乖離している。
全日本空輸株式会社(以下「全日空」という。)には,運航乗務員特別勤務割増手当があるが,これは勤務時間に着目して支払われる手当であり,長時間乗務手当のように乗務時間に着目して支払われるものではない。
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ウ運航乗務員間での不均衡
長時間乗務手当は,長距離国際線の運航に従事しない運航乗務員には支給されないものであるし,長距離路線の運航に従事するかどうかは被告の人事発令により決まるものであるから,長時間乗務手当が突出した水準の手当であることからすれば,多額の長時間乗務手当の支給は運航乗務員間の不均衡をもたらすものである。
そのことは運航乗務員の不満の有無により左右されるものではない。
エ他職種における変動
他職種である客室乗務職の長時間乗務手当は,93年度からの数次の改定によって改定前の特別乗務手当と比較してその額は概ね50パーセント程度減少している。
また,被告の実施した構造改革施策(人件費効率向上施策)により,管理職について,92年度収入を100とした97年度収入の比率は,概算,地上職が87,客室乗務職が88,運航乗務職が94であり,運航乗務職は他の2職種に比して受ける影響度合いが小さかったこと,被告は,97年11月に次長・課長級の地上職管理職,客室乗務職管理職に55歳からの進路選択制度を導入したが,選択肢によっては約300万円の年収減になるのに,運航乗務職管理職はこの制度の対象外であることから,このような職種間のバランスに配慮する必要もあった。
なお,外国他社における地上職の職務範囲は各社様々であるから,これを無視して,被告と外国他社との職種間バランスを比較するのは無意味である。
(3)小括
以上のとおり,被告は,93年11月以降経営建て直しと国際的コスト競争力をつけるため全社的に構造改革を進め,その一環として人事賃金制度の見直しを進め,本件変更もその一環として行ったもので,本件変更には高度の経営上の必要性があった。
本件変更に高度の経営上の必要性があったことは,上記(1)ア及びウ(ウ)の本件変更直前の97年度の被告の経営状況からもいえることである。
2本件変更の内容の相当性について
(1)本件変更の理由
ア被告は,上記1(2)の事情から,98年度賃金制度の改定に際し,第2の2(4),(5)のとおり,長時間乗務手当について,マルチ編成,ダブル編成の時間換算率を見直し,移行措置を廃止したが,これは次の理由による。
(ア)換算率の変更と暫定措置
従来,乗務時間の換算率につき,マルチ編成の場合に6分の5としたのは,同編成の場合,理論的には運航時間の3分の1を休息していることになるから,その休息時間の半分(6分の1)を長時間乗務手当の対象時間とし,これに実乗務時間3分の2を加えた6分の5を乗務時間の換算率としたことによる(ダブル編成の場合の4分の3も同様の考え方による。)。
しかし,休息時間も乗務手当の支給対象時間として乗務手当が支払われているのに,休息時間を2分の1とはいえ,乗務手当に加えて支給される長時間乗務手当の支給対象時間に含めることに合理性はないから,休息時間すべてを長時間乗務手当の支給対象外としたのである。
その場合,長時間乗務手当が大幅に減少することから,これに配慮して減少割合を縮小するため,暫定措置を定めた。
この乗務時間換算率の変更は,客室乗務員について行われていない。
これは,運航乗務員の場合は,生産性の要素を反映できる支払方法とすべく,編成に応じた換算率を乗務時間に乗じることとしているのに対し,客室乗務員の場合は,編成による差はなく,編成により乗務中の休息時間に差が生じないことから,乗務中仮眠できる平均時間の2分の1を減じることとしているもので,両者の時間換算率の取り方,長時間乗務手当の考え方が異なることによる。
したがって,乗務時間換算率の変更を運航乗務員についてのみ行ったからといって,不合理ではない。
また,賃金改定の目的は人件費水準の適正化にあり,その目的に合わせてどの賃金項目についてどのように見直すのが合目的的,合理的であるかが改定理由に当たるから,その理由が各職種で同じでないからといって,公平を失することにはならない。
上記1(2)エのとおり,被告では,構造改革施策がもたらした職種別の影響度合いが,運航乗務職は,地上職,客室乗務職に比して小さく,職種間バランスに配慮する必要もあった。
(イ)移行措置の廃止
上記1(1)ウ(イ)のとおり,移行措置は,被告が93年に暫定手当を廃止し,長時間乗務手当を新設するに当たり,新勤務基準を実施する中で手当制度の見直しについても理解を求めながら円滑に実施していきたいとの考えにより設けられたもので,新勤務基準の代償ないし対価というものではない。
移行措置は,長時間乗務手当の枠組みと整合せず,その継続は妥当でないから,廃止した。
イ以上のとおり,職種間バランスを考慮しつつ,他社に例もなく,支給水準も突出し,一部の機長のみに支払われる長時間乗務手当について,被告がより合理的な手当とすべく改定し,改定による影響を少なくする措置(暫定措置)を講じていることからして,本件変更には,合理性,必要性がある。
(2)不利益の程度・内容
管理職長時間乗務手当の支給対象となる乗務に就いている機長は限られている上,同乗務に就いている機長であっても,総じて大幅な減額を受けているわけではない。
本件変更前の97年度でも支給額月額3万円未満の者が過半数であり,影響の度合いがほとんどない機長が相当数存在する。
他方で,原告ら機長の平均年収が2900万円に達するという世間水準や外国他社との比較からして極めて高い水準にあることからすれば,原告らが受ける不利益は受忍の範囲内である。
なお,本件変更により,一般職及び管理職運航乗務員の長時間乗務手当の原資は,年間約12億円減少した。
(3)関連する労働条件の改善
被告は,97年度の賃金制度の改定により,業績加算手当を新設した。
これは,全職種に共通して,業績主義の一層の徹底を図る趣旨で実施されたが,同年度に行われた賃金制度の改定を全体としてみれば減額部分に対する代償措置があるといえる。
3労働組合との交渉経緯等について
(1)被告は,被告の置かれた経営環境と熾烈な国際競争下において人件費効率を向上させ,国際コスト競争力を強化して会社が生き残っていくべく,92年6月に構造改革委員会報告を全社,全組合に発表して以来,93年以降,人件費関連諸施策の具体化等について全組合と交渉してきた。
被告と全日航労組との間では,随時協議が成立したものの,原告らが属する機長組合は,被告との間で,93年以降毎年十数回を超える労使交渉等の折衝が行われたにもかかわらず,被告の経営環境から目を背け,構造改革施策の必要性を認識せず,既得権の維持のみに固執し,これに応じないとの態度に終始した。
(2)被告は,やむなく,全従業員の過半数の意見を代表する全日航労組との合意を踏まえ,本件変更を含む賃金制度の改定を行ってきたもので,本件変更に機長組合が同意しないからといって,本件変更が許されないものではない。
4まとめ
本件変更当時,経済情勢はより一層混迷の度合いを深めており,その中で被告は,93年に開始した構造改革を進めてきたが,96年の燃油費高騰を契機として収支状況が再び大幅に悪化し,本件変更の前年である97年には,資本準備金の取り崩しによる損失処理をした上で,経営陣も交代するという非常事態に陥っており,売却可能な資産も枯渇していた被告にとって,とるべき施策としては人件費も含めたコスト削減以外にとりうる方途はなかったし,地上職,客ページ(6)
室乗務職に対する賃金の見直し等を実施していたことからすれば,管理職機長を含む運航乗務職に対する賃金制度の見直しが避けられなかった。
本件変更は,長時間乗務手当自体は存続させ,なおかつ9時間を超える乗務に対して支給するという基本構造自体は維持し,時間換算率を見直そうというもので,もともと支給対象となる乗務に就いている機長自体限られているし,本件変更による影響の度合いがほとんどない機長が多数であること,管理職機長の年収は,本件変更後も平均2900万円を上回り,外国他社の機長と比較しても高額であること,乗務手当並びに管理職乗務調整手当を合計して乗務時間80時間相当の定額の手当を受給していながら,原告ら平均で月間乗務時間が65時間にさえも達していないこと,他職種が受けていた影響との比較において不利益の度合いが小さいこと等からして,本件変更による収入減は受忍の範囲にある。
本件変更前の長時間乗務手当が,長距離運航路線の増加に伴う暫定手当解消という,その発足の経緯から,突出した水準の高額な手当であり,しかも一部の者にのみ支給されるという,被告の賃金体系と一部整合しない部分を伴っていたことからすれば,これを枠組み自体は変更せず,シングル編成に関しては従来の取扱いを維持し,マルチ編成等における時間換算率を勤務の実情に合ったものに見直した本件変更,さらに言えば,配慮として,旧来の時間換算率を適用した上で,破格の水準にあった単価についてのみ2分の1とする被告の取扱いは,内容において合理的かつ相当なものである。
これらのことと,被告が業務加算手当の新設等の措置をとっていること,被告が機長組合の理解と協力を得られるよう誠意を尽くして交渉したにもかかわらず,機長組合が応じなかったこと,時間外労働に対する割増賃金という考え方に立つとすれば,長時間乗務手当は,変更後の水準としても高率・高水準にあることからすれば,本件変更には合理性がある。
(原告ら)
1本件変更の必要性について
(1)本件変更に至る経緯をいう被告の主張について
ア判例理論が示す就業規則の不利益変更の合理性についての判断基準の一つである「経営上の高度の必要性」を肯定するためには,1緊急な差し迫った変更必要性,2他に執りうる措置がないほどの変更必要性,3目的・効果からみて有効性を証明できる変更必要性,4経営状況改善策として相当な変更必要性の4つの要件を満たすことが必要である。
本件変更が92年以降継続して取り組んできた構造改革の一環であるとする被告の主張は,抽象的一般論レベルでの必要性をいうにすぎず,従来の判例理論の考え方と異質なものである。
就業規則変更の必要性の判断の対象となる事実は,その変更当時ないしその直前に会社が置かれている経営状況の下での必要事情であり,それより前の必要性に関する事情は,当該変更の必要性を基礎づけるものとはならない。
本件変更に合理性,必要性があるとされるためには,本件変更がされた98年4月当時ないしその直前の経営状態の下で具体的な合理性,正当性があることが必要である。
イ93年から98年の賃金改定は,その都度完結しているもので,その後の改定が予定されていたものではないし,被告の一連の施策として行われたものでもない。
また,被告は,当初から運航乗務員の賃金体系の見直しを考えていたわけでもない。
被告の主張によっても,被告が構造改革を開始した93年度において,その一環としてそれまでの暫定手当を整理・解消し,長時間乗務手当を新設したというのであるから,同じ構造改革の名の下に管理職長時間乗務手当の削減・改定をするというのであれば,98年4月の時点における具体的な削減・改定の必要性,合理性,相当性,緊急性が必要である。
(2)本件変更の必要性について
ア98年当時の被告の経営状況
本件変更をした98年当時ないしその前年の97年当時は,航空旅客は毎年着実かつ大きく増加しており,このような好調な需要の伸びに支えられた結果,公表決算からみても,被告の97年度決算は,営業利益310億円,経常利益77億円,98年度決算は,営業利益248億円,経常利益325億円と2年連続で黒字となっており,経営状況は回復基調にあったから,本件変更をしなければならない必要性,緊急性は存しない。
この公表決算はかさ上げされたものではないし,むしろ,それ以前に航空機材について過大な減価償却を行っていたこと等からして,正しく計算すれば,被告の利益はより大きいものである。
以上のことは,93年以降から見ても,同様である。
格付会社による格付には信頼性がない。
確かにこの間イールドは低下しているが,他方で航空運賃の低廉化が需要を喚起し,航空旅客の増加をもたらしている。
航空輸送産業は,バブル経済崩壊後,価格を低廉化することによって旅客数を増大させる産業へと構造を転換させたもので,イールドの低下と旅客数の増加は表裏一体の関係にあるから,イールドの低下をいう被告の主張は一面的であり,イールドの低下がなければさらに収入増があったとする被告の主張は,無意味である。
イ人件費について
(ア)被告における営業費用中の人件費構成比は,海外他社と比較して低く,国際コスト競争力の観点からして,これまでの人件費削減に加え,さらなる人件費削減である本件変更をする必要性はない。
また,ATK当たり人件費は,92年度が22.9円であったのが96年度は15.8円,97年度が15.2円と効率化されており,本件変更がされた98年度においては13.4円まで下がり,92年度対比で42パーセトも下がっていて,人件費効率化は進展している。
海外他社と比較しても遜色がないか他社より低い。
収支構造の改善のためには,後記ウで指摘するような被告に赤字をもたらしている根本的な原因に着目した施策を実行すべきであり,安易に人件費削減の方法をとることは許されない。
(イ)管理職長時間乗務手当の削減による改善効果
管理職長時間乗務手当の改定による費用削減額は,原告らの推測によれば,98年度で年間約8億8000万円程度であるが,これは同年度の営業費用1兆1328億円の0.078パーセントにすぎず,費用削減効果はわずかである。
機長の労務コストは外国他社と同水準であって,管理職長時間乗務手当を削減しなければならない緊急の必要性もない。
ウ収支構造上改善効果の大きい方策の存在
被告には,航空機材の利用効率の向上,販売関連費用・特販費の削減といった経営状況改善のために執りうる施策が多数ある。
他方で,エセックスハウス・ホテル事業等経済合理性のない関連事業に対する投資,支出を漫然と継続して巨額の損失を発生させたり,長期のドル買い為替予約により総額2200億円に達する巨額の損失を発生させたりしながら,その対策を懈怠したり,経営責任を不問にしたりしている。
これらのこと自体,本件変更を行う緊急性,必要性がないことを示しているし,このような損失に関するしわ寄せを従業員にもたらすことになる本件変更は,その相当性も欠く。
エ長時間乗務手当の必要性
(ア)被告は,89年3月,それまでダブル編成で運航してきた南米線,欧州・シカゴ直行便をマルチ編成とすることを提案し,組合は勤務の総合的見直しをすることを提案して交渉していたが,結局被告が長時間乗務の対価として暫定手当を支払うことになり,この暫定手当は順次長大路線(概ね乗務時間9時間を超える路線)に拡大されていった。
暫定手当が長時間乗務に対する対価であることは,ダブル編成の路線でも支払われていること,その後増額されていること,支払対象路線が拡大していることから,明らかである。
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93年,暫定手当が廃止され,長時間乗務手当が新設されたが,長時間乗務に対する対価であるという手当の性格に変わりはない。
このように,長時間乗務手当は,機長の長時間乗務という特定の労働に対する対価であり,被告の賃金規程で「基準外賃金」とされているのもその現れである。
(イ)機長は,当該航空機の運航の最終責任者としての重大な職責を担っている。
長時間乗務には,それ以外の路線乗務と異なり,1周到な飛行計画等の準備の必要性,2最大離陸重量に近い非常に困難な離陸業務,3非常に長い運航による負担,4疲れ果てた後での着陸業務,5時差を原因とする現地の休養及び帰国後の休日における体調回復の困難さといった特徴があり,運航乗務員に精神的,肉体的に過度なストレス,疲労をもたらす,極めて過酷な勤務であり,せめて手当は必要である。
オ本件変更の必要性をいう被告の主張((被告)1(2)アないしエ)について(ア)突出した水準であるとの主張について
上記エのとおり,長時間乗務手当は,過酷な長時間乗務に対する対価であるから,乗務手当,管理職乗務調整手当と別に支給されることは当然であり,その額が単価の2ないし3倍になるのも,そのように決めたのは被告自身である上,シングル編成で乗務時間が10時間(勤務時間にして12時間15分程度),10時間30分(勤務時間にして12時間45分程度)と過酷な長時間労働のためであるから,何ら不合理ではない。
被告においては,一般職乗務員は月間乗務時間と便乗時間の2分の1の合計が65時間を超えると,超えた時間に乗務手当単価分を乗じた額が支給されるが,機長については,乗務手当(単価の65時間相当額)と管理職乗務調整手当(単価の15時間相当額)が支給されるのみである。
管理職長時間乗務手当を支給される機長は,長距離路線を担当し,月間乗務時間も便乗時間も増加するのに,労働時間が80時間を超えても追加賃金は支払われない。
この機長の勤務の実態からしても,管理職長時間乗務手当を削減する理由はない。
(イ)世間水準との乖離をいう主張について
被告には客室乗務員について長時間乗務手当がある上,全日空には,長時間乗務手当に類する「運航乗務員特別勤務割増手当」がある。
欧米主要航空会社では,全ての勤務等を乗務時間に換算して乗務手当単価を掛けて賃金を支払う賃金制度と,全ての勤務等を乗務時間に換算して月間の労働時間制限を行う勤務制度とが複合した「クレジットアワー制度」をとっており,欧米主要航空会社と被告では賃金体系が異なる。
被告主張のように,「長時間乗務手当に類するものが他の航空会社に存在しない」とはいえない。
(ウ)運航乗務員間での不均衡をいう主張について
就業する勤務の内容が異なる以上,運航乗務員間や,管理職長時間乗務手当支給対象機種に乗務する機長とそうでない機長との間に賃金の差が生じるのは当然であるし,被告の発令によって管理職長時間乗務手当支給対象外の機種に移行しても賃金の減少への移行措置がないからといって,それにより不均衡が生じないように被告が発令を考慮すれば足りるから,そのことは機長間の不均衡の理由とはならない。
機長間から不均衡であるとの不満は特にないのに,機長組合の反対にもかかわらず勤務条件を切り下げてきた被告に,機長間の不均衡をいう資格はない。
(エ)他職種における変動をいう主張について
a被告は,職種間バランスに配慮しつつ賃金改定を行ってきていたが,運航乗務員については,93年以降多項目にわたって賃金切り下げが行われており,職種間バランスは,運航乗務員に不利な形で崩れている。
運航乗務員は,97年度までの賃金改定により額においては社内で最高の影響を受けているが,それまでの年収に応じた生計を営んでいる以上,その影響は甚大である。
管理職長時間乗務手当の削減は,機長の職務・職責に変更がないままされているから,職務・職責を見直して長時間乗務手当を見直した客室乗務員の場合とは異なる。
被告のする年収比率比較について,被告はその正確性を確認できる資料を提出しておらず,根拠が薄弱かつ曖昧である。
被告が地上職,客室乗務職に導入した管理職進路選択制度では,職責の変化によって年収が変わるが,運航乗務員は職責が変化しないから,運航乗務員に進路選択制度を導入することはできないものである。
b被告が国際コスト競争力を問題とする以上,職種間バランスについても国際的な比較をする必要がある。
95,96年度実績において,地上職を1とした場合,運航乗務員の一人当たり人件費は,欧米航空会社が2.3ないし5.76であるのに,被告では2.29であり,欧米航空会社に比べ,地上職と運航乗務員の賃金が近接しており,国際的にみて職種間バランスを欠くとはいえない。
(3)小括
以上のとおり,本件変更がされた98年当時,被告の経営が悪化していたとはいえないこと,人件費は被告の経営悪化の要因ではなく,経営状況改善のためには他にとるべき有効な施策があること等からすれば,本件変更には,何ら必要性がない。
2本件変更の内容の相当性について
(1)本件変更の理由に関する被告の主張について
ア換算率の変更について
93年に長時間乗務手当が新設された当時,被告は機長の長時間乗務手当の対象となる乗務時間の換算率について,マルチ編成の場合休息時間(乗務時間の3分の1)の2分の1を差し引き,6分の5(約83パーセント)としたが,客室乗務員の長時間乗務手当の換算率は93パーセントであった。
このことにつき,被告は,「運航乗務員の休息時間は明確であるが客室乗務員のそれは流動的である。
客室乗務員は12時間のブロックタイムで休息時間を2時間とすると,休息時間の2分の1を差し引けば12分の11(91.7パーセント)となるが,組合と協議して93パーセントとした。」などとして,「この差は適切であり,バランスがとれている。」と説明した。
この説明自体,予定の休息時間を必ずしもとれない場合がある機長の勤務実態を無視したものであるが,被告のこの説明を前提としても,客室乗務員については従前の換算率を維持しているのに,本件変更において,機長についてのみ換算率を引き下げ(マルチ編成では65パーセント),休息時間をすべて支払対象時間から除外することは不合理である上,長時間乗務手当についての客室乗務員とのアンバランスを更に拡大することになり,不公平である。
イ移行措置の廃止について
93年の移行措置は,勤務基準の変更により,2名編成機においてダブル編成で乗務していた機長がマルチ編成の乗務となって勤務が厳しくなるのに,暫定手当が長時間乗務手当に変更されてそれ以前の手当額より少なくなることから,それを回避するため,人的生産性の向上の対価として設けらた。
このように,移行措置は,人的生産性の向上すなわち労働強化の対価であるから,これを廃止する合理的根拠は全くない。
(2)原告らの不利益の程度・内容
ア不利益の重大性
本件変更による長時間乗務手当単価の切り下げ,長時間乗務手当支払対象時間の短縮,移行措置の廃止により,原告らの長時間乗務手当は,勤務は変わらないのに,従来の額に比しシングル編成で約70パーセント,マルチ編成で約3分の1に大幅に切り下げられており,原告らの平均年削減額は一人当たり約138万円にものぼる。
この不利益は,被告が暫定措置を廃止した場合更に拡大され,長時間乗務手当が廃止されるに等しい。
長時間乗務手当の支払対象となる勤務に就いている機長は機長全体の約7割に上り,長大路線が増加傾向にあるこページ(8)
と,被告の判断により機長はいつでも機種・路線室が変更されることから,機長はいつでも長時間乗務手当削減の不利益を受ける立場にあり,本件変更により多くの機長が影響を受ける。
イ機長の収入をいう被告の主張((被告)2(2))について
本件では機長の長時間乗務に対する対価としての管理職長時間乗務手当の切り下げが問題とされているのであり,機長の賃金総体の水準の多寡,その削減の必要性・合理性が問われているのではないから,機長の年収を云々する被告の主張は論理のすり替えである。
のみならず,機長には,安全運航に極めて重い職責を負っていること,資格の取得・維持が困難であることといった職種の特殊性があるし,そもそも,機長の給与は,労使間交渉を経て被告との合意により決定されてきているから,これらを無視して世間相場との比較を論じても無意味である。
被告における機長の賃金は,欧米主要航空会社と比較して決して高いものではなく,国内他社(全日空)と比較しても高いものではない。
(3)代償措置の有無について
本件変更により管理職長時間乗務手当が削減されたにもかかわらず,代償措置は何らとられていない。
業績加算手当は,全従業員を対象とするものであり,管理職長時間乗務手当の引き下げとは無関係な手当である。
(4)労働組合との交渉経緯等について
ア被告は,93年の構造改革施策導入を機に,賃金の切り下げを強行する不誠実な交渉姿勢に転化し,それ以後も,機長組合が会社再建のための提言を再三行っているにもかかわらず,経営悪化の原因を放置したまま人件費切り下げを強硬に主張してきた。
97年に行われた本件変更を含む賃金制度見直しの提案の際も全く同様であり,被告は,十分な説明,裏付け資料の提出をせず,機長組合との間で真摯な労使交渉を持とうとはしなかった。
イ運航乗務員の長時間乗務手当の支給対象となる従業員は,機長,副操縦士,航空機関士のみであり,これらの者の大半(ほぼ100パーセント近く)は機長組合,乗員組合,先任組合に所属しているが,これらの組合は,本件変更を含む人事賃金制度の改定に反対している。
他方,全日航労組は,賃金制度改定について被告と合意しているものの,同労組には運航乗務員は一人もおらず,同労組は,長時間乗務手当の削減について被告とは交渉していないから,同労組が長時間乗務手当の削減について関与する余地はなく,被告が同労組との合意を主張しても無意味である。
4まとめ
本件変更によって管理職長時間乗務手当は変更前のわずか3分の1にまで削減され,原告ら機長は,甚大な不利益を代償措置のないまま被っている。
他方,本件変更当時の被告の経営状況は回復基調の軌道に入っており,運航乗務員の労働生産性が高く,人件費コストも一層低くなっているこの時期に人件費を削減しなければならない必要性,過酷な長時間乗務の対価である長時間乗務手当を切り下げなければならない必要性はない。
労働組合との交渉も不誠実なものであった。
これらからして,本件変更には変更の合理性がない。

第3章当裁判所の判断

第1判断基準
1新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは原則として許されないが,労働条件の集合的処理,特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からして,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒むことは許されないと解するのが相当である。
この場合,当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい,特に,賃金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容するだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである。
この合理性の有無は,具体的には,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきであると解するのが相当である(第2章第2掲記の最高裁判決参照)。
2原告らは,「経営上の高度の必要性」を肯定するためには,1緊急な差し迫った変更必要性,2他に執りうる措置がないほどの変更必要性,3目的・効果からみて有効性を証明できる変更必要性,4経営状況改善策として相当な変更必要性の4つの要件を満たすことが必要であると主張するが,一つの見識ではあっても,就業規則の不利益変更の判断基準は上記1のとおりとするのが相当であるから,直ちに採用できない。
上記1の見地に立って,以下検討する。
第2事実の認定
1被告の経営状況について
(甲214,329,330,乙65,証人P2,同P3,同P4のほか,後掲)(1)被告の収支の推移
(甲47,48,98,116,142,145,154ないし168,199,267,270,271,328,331,乙11ないし19,34,35,66,68,73,74,85,92,94,131ないし133,148,)
ア被告の86年度から98年度までの収支の推移は,別表Iのとおりであり,73年度から98年度までの経常損益・営業損益の推移は別表IIのとおりである。
被告では,第1次オイルショックのあった74年度に266億円,その翌年の75年度に11億円,第2次オイルショックのあった79年度に3億円,羽田沖事故のあった82年度に83億円のそれぞれ経常損失を計上したことがあったが,84年度から90年度は,御巣鷹山事故のあった85年度に16億円の経常損失(赤字)を計上したほかは,好調な経済情勢(いわゆるバブル経済)の下で需要が伸びたことなどから,順調に経常利益(黒字)を計上してきており,89年度は営業損益で740億円,経常損益で527億円と過去最高の黒字であった。
御巣鷹山事故のあった85年度においても,営業利益は192億円と黒字であった。
当時は,政府機関をはじめ各種経済研究機関は,我が国のGNPについて89年以降も3ないし5パーセント内外の伸びを想定しており,被告も年間6パーセントの事業規模の拡大を計画していた。
イところが,91年1月の湾岸戦争を機に世界的な不況となり,我が国においても,個人消費と民間設備投資の減退により景気後退の度を強めるようになり,それまで好調であったバブル経済の崩壊をもたらすことになった。
こうした経済情勢は,航空需要に多大な影響を及ぼし,その結果,被告は,一転して91年度から93年度まで3期連続して,それぞれ60億円,538億円,262億円の経常損失(赤字)を計上することになり,営業損益に関しても,それぞれ129億円,481億円,293億円の営業損失(赤字)を計上した。
このうち,91年度は109億円の資産売却を行ったにもかかわらず営業損失,経常損失となったものである。
また,92年度は,同年度において航空機材の減価償却期間の延長を行い(B747400国際線型航空機及びそページ(9)
の予備部品について,税法上の耐用年数10年から被告の定めた耐用年数15年に改定),また,株式売却をして営業外収入208億円を得たにもかかわらず,被告の創業以来最も巨額の赤字となったものであり,この年被告は無配に転落した。
被告は,この航空機材の減価償却期間の延長について,「使用実績,耐久度,経済的使用可能期間等を勘案して行った。
これにより税引前当期純損失は約86億円少なく表示されている。」と説明している。
減価償却期間を延長すると,その部分だけ減価償却費が少なくなり,営業費用の中の減価償却費が軽減される。
この効果は後年度に累積するが,それまで被告は,減価償却費は,機材の更新など将来の投資に備える資金となるもので,実際の使用期間に合わせて償却すると更新する段階で資金不足が生じるため,償却期間の延長は困難であるとの立場をとっていた。
なお,会計準則上は,「『資産』の使用状況,環境の変化等により,当初予定による残存耐用年数と現在以降の経済的使用可能予測期間とのかい離が明らかになったときは,耐用年数を変更しなければならない。」とされている。
さらに,93年度は,引き続き航空機材の償却期間の延長を行った(B747400国際線型以外の航空機及びその予備部品について,耐用年数を,国際線型機材は15年に,国内線型機材は13年に改定)ほか,資産売却による営業外収入383億円があるにもかかわらず,262億円の経常損失を計上したものであった。
被告は,この航空機材の減価償却期間の延長について,「最近の航空業界の経営環境の変化による経済性の観点から,平成5年度以降の中間事業計画において現有航空機材の使用期間の延長が決定され,その対応措置が講じられたこと,及び当該航空機材の使用見込年数が税法に定める耐用年数と乖離することが明らかになったことに対応させて耐用年数をより実態に近づけるために改定した。
これにより税引前当期純損失は約178億円少なく表示されている。」と説明している。
この間,営業収益は,91年度から93年度まで,それぞれ前年比0.4パーセント,7.2パーセント,5.0パーセントと減少していた。
ウ94年度においては,後記2の構造改革諸施策を実施したことや資産売却による営業外収入458億円があったため,ようやく経常利益が28億円と黒字となった。
しかし,営業損益は,営業収益が前年比5.4パーセントと増加したにもかかわらず,同年度においても99億円の赤字であった。
なお,この年の9月,関西空港が開港した。
95年度は,円高による海外観光旅行者の増大などにより営業損益は154億円の黒字となり,248億円の資産売却をしたこともあって経常損益も44億円の黒字となった。
同年度において,被告は,有形固定資産(航空機を除く)の減価償却方法を従来の定率法から定額法に変更した。
減価償却方法を定率法から定額法に変更することにより,変更後しばらくは毎期の減価償却費用が減少することになるが,この変更について,被告は,「減価償却費の適正な期間配分により収益との合理的な対応を図るため変更した。
これにより税引前当期純利益は約109億円増加している。」と説明している。
96年度は,燃料価格の高騰による航空燃油費の大幅増等により営業損益の黒字は46億円にとどまり,資産売却による78億円の営業外収入があったにもかかわらず,経常損益は170億円の赤字に転落した。
これらの結果,96年度末には被告の累積欠損金が576億円に上り,関連事業を含めた連結欠損金は1100億円と,東京証券取引所一部上場企業の中で最悪の数字であった。
仮に被告が上記の資産売却や航空機材の減価償却期間延長,有形固定資産の減価償却方法の変更を行わなかったとした場合は,被告の累積欠損金は950億円となっていた。
97年度は,営業損益は310億円の黒字であり(これは86年度以降の12年間において4番目に高い数字である。),経常損益は,71億円の資産売却をしたこともあって,77億円の黒字となった。
被告は,同年度において,本体の累積損失576億円と関連事業損失等970億円を特別損失として計上した上,資本準備金及び別途積立金等合計1517億円を取り崩してこれを一掃した。
被告は,同年度において,機種ごとに新たな耐用年数(13年から22年)を定めた。
これについて,被告は,「各機種の特性を勘案して耐用年数を決定する方がより合理的と判断し,被告の多様化した機種の運航実績が揃った同期において,機種毎に新たに定めた耐用年数に見直した。
これにより税引前当期純損失は約173億円減少している。」と説明している。
なお,以上の航空機材の償却期間延長に関し,被告の保有している航空機材のうち,B747型機の平均使用年数は約19年,DC10型機の平均使用年数は22.1年であり,97年度において航空機の償却期間を主要航空各社で比較すると,被告は他社と同等かむしろ他社の方が長かった。
また,97年度における減価償却率の進行は,被告は他社と比べて高かった。
エ98年度は,営業損益は248億円の黒字であり,経常損益は,322億円の資産売却をしたこともあって,325億円の黒字となった。
この年,被告は,前年度にした資本準備金等の取り崩しについて株主の理解を得るために配当を行うこととし,7期ぶりに6分配当(3円)を実施し,復配した。
なお,被告は,同年度において,半年分の臨時手当153億5000万円を計上しなかった。
これは,それまで前年度に翌年支払うべき臨時給与の支払見込額を未払費用として計上していたが,99年度以降は当該年に支払う臨時給与額については当該年度の費用として計上することに改めたことによる。
これについて,被告は,「臨時手当については,従来支払対象期間に応じた支払見込額を未払費用として計上していたが,平成11年度から支払対象期間が変更されたことに伴い,同期は経過措置の適用対象者を除いて未払費用は発生しないこととなった。
この結果,同期は支払対象期間変更前と比べ未払費用の額は153億5000万円減少しており,営業利益,経常利益,税引き前純利益は同額増加している。」と説明している。
99年度は,営業損益は287億円の黒字,経常損益は94億円の黒字,00年度は営業損益は559億円の黒字,経常損益は289億円の黒字であった。
01年度は米国テロの影響もあり,営業損益は163億円の赤字,経常損益は415億円の赤字であった。
オ企業の基礎的な経営体力を見る上で有効な方法といわれる資金収支(キャッシュ・フロー)分析(91年度から98年度までの分析)では,資金収支は,92年度以降97年度までは堅調に伸びていたが,98年度には再び低下している。
(2)航空会社の構造的体質営業外損益について
(甲98,153ないし161,176の(2),乙11ないし19,34,69,74,133)ア航空運送事業は,航空機の購入を始め巨額の設備費を必要とし,設備投資に要する借入金に対する支払利息が巨額の営業外損失となる構造的体質を持っている。
別表Iのとおり,被告は,89年度まで毎年200億円台の巨額の営業外損失を計上しているが,その大部分は金融収支の損失であり,航空機の売却等で営業外収益を計上できる場合にその赤字幅が小さくなったり,黒字に転化したりしてきた。
イ90年度,91年度は,89年末の時価発行による増資等の結果,受取利息及び配当金がそれぞれ345億円,308億円と巨額であったため,営業外損失も小幅の赤字ないし黒字になっていたが,92年度以降94年度までは,受取利息及び配当金が半減する一方,支払利息は400億円台と大幅に増加し,金融収支は260億円台から350億円台の赤字となった。
もっとも,92年度には所有株式の売却等により260億円の営業外収益,93年度には266億円の航空機材売却益,94年度には220億円の航空機材売却益をそれぞれ計上したため,営業外損益は,それぞれ57億円の赤字,31億円の黒字,127億円の黒字となった。
ウ95年度以降97年度までは,受取利息及び配当金はさらに激減する一方(支払利息は400億円台半ばから350億円台半ばで推移),資産の売却等の余力がなくなったため,金融収支の赤字を補うことができず,営業外損益は,それぞれ110億円,215億円,233億円の赤字となった。
98年度は,営業外損益は77億円の黒字となっている。
なお,被告が92,93,95年度に行った上記減価償却期間・方法の変更((1)イ,ウ)により,投資回収期間ページ(10)
(有利子負債の返済期間)が89年には4.9年であったのが96年には連結で17.6年となり,長期化している。
96年度で欧米他社と比較すると,被告の有利子負債率は連結ベースで86パーセントであったが,欧米他社は70パーセント前後である。
返済年数は最大の英国航空が5.9年,最小のデルタ航空が4.2年となっている。
(3)営業収支について
(甲98,154ないし159,194,269,乙11ないし19,36ないし38,41,74,75,77)ア被告の90年度における営業収入の構造は,別表IIIのとおりである。
被告では,国際線の旅客・貨物収入が営業収入全体の65パーセント(うち国際線旅客収入は51.2パーセント)を占めており,その後現在に至るまでこの割合に大きな変化はなく,被告にとっては国際線収入の動向,とりわけ,国際線旅客収入の動向が被告の収入の動向に大きく影響する。
イ被告の86年度以降98年度までの営業収入の推移は別表IVのとおりである。
国際線の収入は,80年代には順調に伸び,88,89年度は対前年比10パーセント前後の伸びを示し,90年度には7257億円に達していた(ただし,同年度の対前年比は2.7パーセントの伸びに止まる。)が,以後は減少し,91年度は7023億円(前年比マイナス3.2パーセント),92年度は6252億円(前年比マイナス11.0パーセント)となり,93年度は5809億円(前年比マイナス7.1パーセント)にまで落ち込んだ。
しかし,その後持ち直し,94年度は6288億円,95年度は6939億円,96年度は7548億円,97年度は7641億円と回復したが,98年度は7135億円(前年比マイナス6.6パーセント)にとどまった。
ウ被告の86年度以降98年度までの国際線取扱量と収入の推移は,別表Vの1のとおりである。
この間,旅客数,貨物量は,90年度,92年度(貨物量については91年度),97年度を除き,おおむね増加しているが,収入の増加度合いは92年度以降それに大きく及ばず,旅客数,貨物量の増加度合いが収入の増加度合いに必ずしも結びついてない。
なお,97年度の旅客数は,96年度の1142万1000人から1117万人と減少し,国際線旅客収入は前年比0.2パーセントの減少となっている。
エ被告の86年度以降98年度までの国際線旅客単位当たり収入(イールド)の推移は,別表VIのとおりである。
90年度の14.3円/人キロをピークとして以後急激に下降し,94年度は11.0円/人キロ,95年度には10.1円/人キロにまで落ち込み,97年までは同様であったが,98年度は再度9.3円/人キロまで落ちている。
98年度イールドは,90年度に比し35パーセント低下しているが,これは,単純化すれば,同じ旅客数であったと仮定した場合の収入が35パーセント低下することを意味する。
被告の90年度の国際線旅客収入は5732億円であったから,90年度と98年度が同じ旅客数であったと仮定した場合,イールドが低下したために計算上2006億円の収入減となったことになる。
もっとも,現実には,別表Vのとおりこの間旅客数が1.5倍近く増加したため61億円の収入増になっているが,イールドの低下がなければ98年度は2522億円の収入増であったことになる。
このように,国際線の旅客数はおおむね増加しているのに収入の増加度合いがそれに及んでおらず,またイールドが低下していることは,有償旅客1名当たりの単価が下落していることを示しており,国際線収入減少の原因が価格の低下にあることを示している。
被告の分析によれば,価格低下の原因は,1消費者の低価格志向,2ファーストクラス,ビジネスクラス等高額商品の需要の減少,3価格競争の激化(需要と供給のギャップ,円高)にあった。
被告は,航空運送は今後も低価格が求められると考え,この価格低下は一過性のものではないと判断した。
また,3大空港プロジェクト(関西空港の開港,成田第2期工事の完成,羽田空港の沖合展開)の関係で,これにより発着枠が大幅に増えて競争が激化するため,被告では,イールドが低下し,投資等の負担や費用等の増加も予測された。
現に94年9月の関西空港の開港により被告の関西圏でのイールドは10パーセント低下した。
オ被告の国際線の供給シェアは,81年は34パーセントであったが,90年には24パーセントに下落し,その後横ばい状態が続いている。
他方,国内線のシェアは20パーセント前後で推移している。
カ損益分岐重量利用率分析(1トンを1キロメートル運送して得られる収入(実収単価)と原価(単位原価)の割合。
この比率が低いほど採算性が高いとされる。)で見た場合,91年度以降被告では,外国他社と比べて単位原価より実収単価の下落が大きい。
(4)被告のコスト及びコスト競争力
(甲116ないし118,133ないし136,138ないし140,乙39ないし41,70,74,78ないし81)
ア航空会社のコストである営業費用は,航空燃油費,運航施設利用費等のその他変動費から成る変動費(飛行機を運航することによって発生する経費)と,機材費,人件費,不動産賃借料,広告宣伝・販売促進費等のその他固定費から成る固定費(飛行機を運航しなくても発生する経費)から構成されているが,航空燃油費,運航施設利用費,機材費は航空会社間で大きな差はなく,コスト面での競争力の差が生じやすいのは人件費,その他固定費である。
被告の固定費は,80年代半ばまでは営業費用の半分以下であったが,90年度には固定費が営業費用のうち57パーセントを占めており,固定費の中の人件費は26パーセントを占めている。
92年度は,同様に,固定費が59パーセント,人件費が26パーセントとなっている。
イ基本的には,変動費,固定費の中の機材費は生産量に応じて拡大するものの,その余の固定費は生産量よりも落ち着いた増勢を示し,その結果生産量一単位当たりのコストは低減していくものである。
しかし,被告においては,80年代後半は固定費が生産量の伸びを上回って拡大している。
それは,変動費の中で航空燃油費の占める割合が大幅に低下したのに対し,固定費の中の機材費,人件費の割合が高くなってきたためである。
もっとも,欧米主要航空会社と比較した営業費用中の人件費の構成比は,91年度以降98年度までいずれも被告の方が低かった。
ウ84年度以降97年度までの単位当たりコスト(費用を有効座席キロもしくは有効トンキロで除したもの。
有効座席1座席もしくは許容搭載重量1トンを1キロメートル輸送した場合にかかる費用。)についての被告と外国主要航空会社とのドル建てでの比較は別表VIIのとおりである。
被告のコストは,90年度以降上昇し,欧米主要航空会社に比べ,92年度ころは3割ないし5割高くなっており,96,97年度に下降し,97年度においては英国航空より若干下回ったものの,他の欧米主要航空会社と比べ2割程度以上高く,被告は劣位にあった。
エ被告の81年度以降98年度までのロードファクター(L/F),ブレークイーブン(B/E。
単位当たりコスト÷単位当たり収入)の推移は別表VIIIのとおりである。
L/Fは,全体の生産量のうち,実際に売れた量がどれだけかを示す指標であり,B/Eは,収支均衡となるのに必要な利用率で,単位当たりコストが低いほど,単位当たり収入が高いほど,低くなり,黒字体質となるものである。
被告のL/Fは,89年度の71パーセント超をピークに92年度には64パーセント前後まで急激に減少し,以後は緩やかな上昇傾向にあるが,B/Eは,87年度以降65パーセントを超え,92年度には70パーセント近い数値,93年度は71パーセント近い数値になり,93年度以降下降傾向で推移したため,B/EがL/Fを上回り,赤字状態が続いていた。
97年度はB/EとL/Fがほぼ均衡しているが,98年度は再びB/EがL/Fを上回っている。
(5)被告の株価,格付
(甲144,173,174の(1),(2),175,196,272,273,乙67,72,126ないし130,145)
ページ(11)
ア被告の株価は,90年には1000円を超えていたが,その後は概ね安値で推移し,96年12月末には615円となり,97年には400円を切り,99年まで同様の状態にあったが,00年以降は400円台となっている。
イ被告の格付は,スタンダード&プアーズ社の格付では,90年,91年にはAAであったのが,92年にA+となり,93年,94年はA,95年から97年はBBB+,98年はBB+,99年から01年はBBと低下している。
この間,英国航空は,92年以降98年までは一貫してAであり,99年にAに低下し,00年にBBB+,01年にBBBに低下している。
その他の航空各社との関係では,98年までは被告が高かったが,98年はアメリカン航空及びデルタ航空が,99年はアメリカン航空,デルタ航空及びユナイテッド航空が,01年にはデルタ航空が,被告を上回っている。
スタンダード&プアーズ社は,95年の被告の格下げについて,国内線業務の不振により被告の収益展望が悪化してきていること,世界の主要航空会社と比べ被告の財務内容が悪化していることを指摘している。
ムーディーズ社の格付では,92年にA1であったのが92年から96年までA2となり,97年にA2からA3へ低下し,98年から01年はBaa3(98年に一時Baa2)と低下したが,この間他社は英国航空がA2で推移した(00年にA3,01年にBaa3と格下げ)ほかは,97年度までは被告と同等かそれ以下であった。
ムーディーズ社は,97年の被告の格下げについて,被告はコスト構造が相対的に脆弱であるため,今後も収益性に悪影響が及ぶであろうと予想したとし,より思い切ったコスト削減策が必要となろう,また,財務状況全般を改善するためには,業績の振るわない航空以外の事業部門を好転させることも必要であろうなどとしている。
同社は,98年の被告の格下げに際しても,ほぼ同様の見解を発表している。
株式会社日本格付投資情報センターの格付では,90,91年はAAであったのが,92年はAA,93年から97年はA+,98年はA,99年はBBB+と低下している。
同社は,98年5月に被告の格付けをA+からAへ2段階格下げしたが,その理由として,「競争のさらなる激化は避けられず,経費削減・リストラ努力が行われているものの,依然収支構造は硬直的であり,主力の国際線での営業収益の伸び悩みは利益水準の上昇抑制に直結する。
連結業績は大幅な赤字が続いており,財務構成は大幅に悪化した。
有利子負債は増加傾向にあるし,本業からの増加はあまり期待できない。」などとしている。
スタンダード&プアーズ社の格付「BB」の意味は,「他の投機的格付に比べ,近い将来債務が不履行になる可能性は低いが,事業状況,財務状況,経済状況が悪化した場合に,期日どおりの債務履行能力が不充分となる可能性をもたらす,大きな不確定要素やリスクにさらされている。」というものであり,ムーディーズ社の格付「Baa」は,「財務の安全性が適当にある。
但し,信用力を支える何らかの要素が不足しているか,ないしは長期的にみて不確実であるもと考えられる。」というものである。
株式会社日本格付投資情報センターの格付「BBB」は,「債務履行の確実性は十分であるが,将来環境が大きく変化した場合,注意すべき要素がある。」というものである。
BBやBaaといった格付では,社債の発行が難しくなり,資金調達に支障を来すとされる。
もっとも,このような格付機関による格付については,十分な信頼性の保障がないとの意見もある。
2被告における構造改革諸施策の実施
(甲50,249,255,乙1ないし9,24,43,65,71,74,75,91,153,証人P2,同P1)
(1)構造改革委員会の設置
ア被告では,毎年,次年度以降3年から5年の間の経営方針及び基本的な計画である中期計画を策定している。
被告は,92年2月,「航空輸送における世界的な規制緩和,自由化の潮流の中で,目前に迫った3大空港プロジェクトの完成により,我が国航空業界も熾烈な競争時代の幕開け,歴史的な転換期を迎えることになる。」とし,その環境の変化に生産・販売の両面から的確に対応していくとして,「9296年度展望と9293年度事業計画」(乙2)を策定し,9296年度の展望として,「(1)安全運行の堅持とお客さまに選べられる良質なサービスの追求,(2)適正規模拡大を図るための供給力の拡充と国内線への重点展開,(3)高B/E体質から脱却し,競争力を向上させるための収益の極大化と徹底したコスト削減」を最重要経営課題として推進していくこととした。
同計画は,91年度において,湾岸戦争により需要が低迷する中,被告の企業競争力の低下傾向が強まり,一人当たり生産量,販売量が前年比でマイナスを記録するとともに,国際線旅客便の供給シェアが87年の34パーセントから24パーセントに低下したこと,この航空会社を取り巻く環境の厳しさはなお引き続くと予測されたことから,これに対処するためであった。
しかし,同計画は,収支の正確な見通しを持つに至らなかったため,社長を委員長とする構造改革委員会を設置して同委員会にその取組みを委ねた。
イ構造改革委員会は,92年6月1日,「構造改革委員会報告」(乙1)を発表し,被告の国際線依存率が一挙に低下することはあり得ず,国際線航空会社としての競争力を強化することが不可欠であり,「国際コスト競争力」をキーワードとし,あらゆる面から効率化を検討したとした上,主要構造改革項目として,「(1)事業運営体制では,安定した経営基盤確立のため,国内線の拡充を図ること,関連事業戦略として,量的拡大から質的向上へ転換すること,(2)生産面における構造改革では,地点拡大から収益性へ重点を置き,路線のリストラを図ること,貴重な機材の徹底的活用のため,機材の利用効率の向上を図ること,生産体制の柔構造化のため,外部生産資源の活用を図ること,(3)コスト構造の改革では,最小限の投資で最大限の効果を上げるため投資の見直しを行うこと,スリム化をめざし,人件費効率の向上を図ること,国際コスト競争力を強化するため,コストの外貨化を図ること,(4)販売構造の改革では,単位当たり収入の極大化を求め,イールドの向上に努力すること,流通におけるプロJAL化を促進するための流通戦略をとること,(5)意識構造の改革として,厳しい環境下での労使強調に向けた新しい労使関係を作ること,民間企業意識の再徹底と大企業病の克服のため業務運営体制の見直しをすること」を上げ,これらの諸施策の実施が最低限必要であるとした。
この報告の中で,「人件費効率の向上」の項では,「コスト競争力の強化を図り,被告の収支構造の改革を進めていく上で,人件費効率の向上は極めて重要な要素であることから,人員効率の向上及び単価水準の一層の適正化を図る施策を講じる。
なお,マクロの参考指標として,ATK当たりの人件費を,91年度23円程度から96年度において20円以下にまで改善することを目標とする。」とされ,職種全体では,ベアは,一人当たり人件費が高位の水準にあることを踏まえ,世間動向を勘案しつつ,経営状況に応じて実施すること,臨時手当は,人件費水準の観点とともに,業績をより適切に反映するとの考え方に則り水準を決定すること,諸手当制度等の見直しについて検討すること等を指摘し,運航乗務職については,勤務基準見直しの検討をすること等を指摘した。
(2)構造改革諸施策の実施に伴う被告の説明等
ア被告は,構造改革委員会報告を受けて,順次構造改革諸施策を実施することとしたが,92年度の収支が創業以来の大幅な赤字になることが明らかになったため,構造改革施策を前倒し,深化させる必要があるとし,93年1月「9394年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」(乙3)を策定した。
被告は,この計画で,「91年,92年と2期連続の減収減益(しかも赤字)という深刻な事態にあり,その早急な回復と内外の競争からの生き残りを図るため,93,94年度において早急に業績の回復を図るとともに,95年度以降は今後の熾烈な競争に打ち勝っていける強靱な企業体質を確立していく必要があり,そのための諸施策を実施する。」とし,財務関連施策として,各年約1000億円の投資削減を行う,費用効率化施策として,費用(特に固定費)の削減施策を徹底し,93年度で約1000億円強(費用の約10パーセント)の費用削減を行い,94年度も継続するなどとした。
イ93年度において,1000億円の費用削減と1000億円の投資削減という単年度の目標は達成されつつあったが,不況に伴い,企業の経費削減と消費者の購買意欲の減退・低価格志向が加速し,経営環境はますます厳しくなったページ(12)
上,急激な円高によってさらに値下げ余力を得た外国航空会社との競争が一層激化したため,収入規模は前年を大幅に下回り,3期連続の赤字が避けられない状況となった。
そこで,被告は,94年1月,上記計画を深化させ,第2次構造改革施策を追加した「9495年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」(乙4)を策定し,「93年度も赤字が避けられない情勢にあり,市場の値頃感を前提として今後も成長するマーケットの中で販売競争に勝ち,利益を出せる企業体質,コスト体質に早急に変身していくことが生き残りの唯一の道であり,そのための施策を実施する。」とし,財務関連施策として,投資額を1500億円削減し,投資総額についても前回の計画を半減し,4400億円規模にする,費用効率化施策として,抜本的な構造改革施策を実行するとともに,94,95年度には緊急収支改善施策も加えて行い,94年度においては1000億円の経費削減により営業費用総額を1兆円に圧縮するなどとした。
同年2月には,被告は,各組合に対し,他社の状況等からして,国際コスト競争力の構築を図るため97年度までにATK当たり人件費を15円以下にする必要があると説明した。
なお,被告を含む国内航空会社は,94年度に,労働省から雇用調整助成金の支給対象業種に指定された。
ウ94年度においては,依然としてイールドの低下が続いており,営業損益が赤字となる見通しであったことなどから,被告は,95年1月,「95年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」(乙5)を策定し,「経常収支では収支均衡は達成可能な見通しにあるが,営業収支レベルでは依然として赤字体質から脱却し得ない状況にあり,前年度の基本的な考え方を踏襲する必要があるので,諸施策を実施する。」とし,うち費用効率化施策として,継続的に構造改革施策を実行するとともに,95年度も引き続き緊急収支改善施策を実施し,営業費用総額の圧縮を図るなどとした。
エ95年度においては,合理化を経た米国航空会社との競争が激化したことから,被告は,00年度予定の成田空港第2期工事完成により外国航空会社との競争が激化し,大競争時代に入るとし,96年1月,「19962000年度中期計画」(乙6)を策定し,「94年度は経常赤字を回避できたものの,営業収支は未だ赤字であり配当も3期連続無配であることなどから,商品競争力強化とコスト競争力強化を車の両輪とする21世紀に向けた新たな構造改革『チャレンジ21』を策定,実施する。」とした。
オ96年度においては,航空燃料の高騰等により営業損益はわずかの黒字にとどまり,経常損益は再度赤字に転落した(営業利益46億円,経常損失170億円)。
91年度当時と比較すると,96年度における資産売却(78億円),減価償却期間変更の効果(374億円)がなければ,622億円の経常損失となるものであった。
被告は,97年4月,「19972001年度中期計画」(乙7)を策定し,「被告は,92年度以来構造改革に努めてきたが,96年度においても大幅な経常赤字が予想され,無配が避けがたい状況であり,数年にわたり構造改革を実施しながらも,依然として利益を出せる体質に転換できていない。
これは,1コスト構造上の問題(主要外国社に対し未だコスト競争力を有するに至っていない。),2国際線における価格競争の継続,3国内線の環境変化(国内線も自由競争の時代に入る。),の3点に集約される。
『安全運行の堅持を大前提とした上で早期復配の実現と四者(社会・株主・社員・会社基盤)還元体制の確立』が今中期計画の最大の目標である。」とし,その実現のため,主要施策として,1安全運行の堅持と良質なサービスの追求,2路線運営の効率化と事業運営体制の改革,3商品力,販売力の強化,4コスト構造の改革,5関連事業をあげ,「コスト構造の改革については,1コスト構造の全面見直しと従来の枠を越えたコスト効率化の推進,2生産体制・生産性に関わる施策,3人事制度及び賃金制度等に関わる施策を実施する必要がある。
3人事制度及び賃金制度等に関わる施策の一つとして,運航乗務員手当及び運航乗務管理職乗務手当について,関連の手当も含めた総合的な見直しを行い,基準内賃金との再編を実施する,その他の諸手当のあり方については,統廃合も含めて検討する。
98年度より実施すべく,97年度中に具体案を発表する予定である。」とした。
被告は,被告の場合,金融収支を補い,かつ,税金を支払い,最低でも1割以上の配当を行うとともに,一定の内部留保を図るためには,400億円規模の経常利益,700億円規模の営業利益を上げることが必要であると考えていた。
同中期計画の検討過程では,収入が97年度は96年度対比560億円増,01年度で96年度対比累積1860億円増と想定したが,それでも,人件費関連を除いた諸施策を実施しても経常収支は97年度は40億円の赤字,00年度の成田第2期工事完成により競争が激化して01年度は280億円の赤字となる見通しであり,人件費効率の向上施策を含めた諸施策を実施することによりようやく97年度に収支均衡,98年から00年度までは黒字(98年度260億円,99年度380億円,00年度30億円),01年度に10億円の赤字で済む見通しであった。
カ97年度においては,年度後半から急激に景気が悪北したため,国際線旅客の需要が大きく落ち込んだ。
被告は,景気動向等の想定を超える事態に十分対応できるまでには被告の経営体質は強化されておらず,また,巨額な累積欠損金があり(連結で1100億円。
うちホテル・リゾート関連の累積欠損金は743億円。),有利子負債も1兆6000億円と巨額であること,98年1月日米航空交渉が決着したことや00年の成田第2期工事完成が間近であることから,価格競争の一層の激化が想定されたこと,退職金給付債務の積み立て不足の明示が00年度から義務づけられるが,不足額が2000億円以上あり,その償却のため人件費が毎年100億円以上圧迫されること,などから,98年3月,98年度に向けて,「19982001年度中期計画」(乙8)を策定し,「前回の中期計画で掲げた目標を達成するための諸施策を実施する。
『健全で強いJALグループ』への再生を図るための諸施策を実施する。」とし,上記「早期復配と四者還元体制の確立」の達成を最重要課題とし,資本準備金等の取り崩しを行って累積損失,関連事業損失を一掃し,98年度での復配を行う,復配を確実にし,その後の配当継続,安定的な収益確保や財務体質改善のため,01年度までに単位当たりのコストの10パーセント以上の削減を目指すコスト効率化施策を実施するとした。
同計画の検討過程において,被告の経常収支の見通しは97年度50億円,98年度200億円,99年度300億円,00年度400億円,01年度100億円の黒字としていたが,97年度に実施した航空機材の減価償却期間の延長やこれまでの減価償却変更の効果がなければ,91年度ベースでのこの経常収支見通しは,97年度497億円,98年度347億円,99年度247億円,00年度147億円,01年度447億円の各赤字となるものであった。
なお,98年3月,被告の経営陣は交代した。
キ被告は,新経営陣の下で今後の方向性を検討し,98年10月に「健全で強いJALグループを目指して」(乙71)を策定し,深刻さを増す経済情勢に加え,内外航空市場における競争が激化しているとして,一日も早い低コスト体制の実現が必須であるとし,単位当たりコストの10パーセント削減の目標を1年前倒しして00年度での達成を目指すなどとした。
被告は,99年3月,「『健全で強いJALグループ』への再生ビジョン19992001年度中期計画」(甲50,乙9)を策定し,同趣旨をうたうとともに,単位当たりコストの10パーセント削減の目標をさらに1年前倒しして99年度での達成を目指すなどとした。
同計画において,被告は,99年度は営業利益295億円,経常利益250億円,00年度は営業利益760億円,経常利益370億円,01年度は営業利益570億円,経常利益270億円を見込んでいた。
ク被告は,以上の策定した各計画について,その都度,全社員や労働組合に説明した。
(3)被告の実施した構造改革施策
92年度以降被告が進めてきた構造改革施策の概要は別表IXのとおりである。
被告は,1事業運営関連の施策として,路線の見直し(新規路線開設・路線廃止等),機材の利用率向上(増席改修,機材の効率活用,客室仕様変更時間短縮化),外部生産資源の活用(ジャパン・エアチャーター社≪後にジャルウェイズ社に社名変更≫からのウェットリース≪他社から航空機材を乗員ぐるみでリースし,自社の便名で運航すること。
≫拡大,コードシェアリング≪自社とページ(13)
他社が共同で双方の便名をつけて運航を行うこと。
≫の拡大,日本エアシステム株式会社≪以下「日本エアシステム」という。
≫との受委託契約の拡大,サザン・エア・トランスポート社への貨物便運航委託),関連事業戦略(日本ユニバーサル航空株式会社≪以下「JUST社」という。
≫の運休,新規投資の原則凍結,重点事業分野の整理・集約,グループ内取引の市場価格化)を行い,2コスト構造の改革に向けた施策(人件費効率向上施策については別に述べる。
)として,航空機の調達に関わる施策(保有航空機の退役延伸,一部航空機導入の取り止めないし延期,日本型レバレッジドリースの活用等),3大空港プロジェクト関連地上投資の大幅見直し,全日空との整備協調体制,貨物器材共同発注体制,地上資産のリース化,社宅・寮等の売却,不採算関連事業の特損処理,関西国際空港ハンガーの賃借化,その他(物品類の海外調達拡大,機体整備の海外委託,管理可能費の一律削減,ジャルエクスプレス社における日本人運航乗務員の採用,運航管理部門業務の一部委託化,機内サービスの見直し)を行い,3販売構造の改革に向けた施策として,イールドの向上施策(国際線旅客予約管理システムの強化,日本発着貨物積取り強化,国際線のマイレージ・サービス導入,マイレージ・サービスの国内線・国際線統合,国際線日本発エコノミー新運賃の導入,JALSuperLogisticsの展開,幅運賃の導入及び事前購入運賃大幅拡充,前売り悟空運賃の導入,機内サービスの改善,アメリカン航空との提携拡充,日本地区APEX(前売り悟空運賃)の比率向上)を行い,4流通対応の施策として,予約システムの拡大,自社系流通会社の強化,新旅行商品の開発,JALファミリークラブの設立,一般予約のコンソリ化(一元化)と予約のフリーダイヤル化,チケットレスサービス,新エグゼクティブクラスの導入,カーゴ2000ジャパン設立,JALONLINEの導入,海外コミッションの削減を行った。
このように,その対象は,事業運営面,コスト構造面,販売構造面等あらゆる分野に及んでいる。
(4)機長組合の提言
(甲61,62)
機長組合は,93年3月,被告に対し,「日本航空再建に向けての提言」を行い,92年度の経常損失が大幅な赤字になる状況に至った原因を明確にし,経営責任の明確化,安全・定時・快適な運航体制の確立等が求められるとして,そのための提言を行った。
その中では,後記7のドル先物予約,ホテル事業等についての経営責任の明確化とともに,損失・被害を最小限とするための施策が必要であるとしていた。
また,機長組合は,97年2月には,「真の日航再建に向けての再度の提言」等を行った。
3構造改革施策のうち,被告のとった人件費効率向上施策について
(甲4ないし6,9ないし13,71ないし81,83ないし85,102,104,171,177の(1)ないし(3),199,201ないし212,214,246,247,263の(1),264の(2),323,350,乙20ないし33,42,44ないし46,60,62ないし65,91,93,98ないし100,102ないし112,116,139,140,143,153の(1),178,証人P2,同P1,同P3,同P4,原告P5本人)
(1)ATK当たり人件費等
ア被告の全従業員ベースのATK当たり人件費及びそれと外国主要航空会社とのATK当たり人件費の比較は,別表XIのとおりである。
また,91年度以降99年度までのATK,営業費用,人件費の関係は別表Xのとおりである。
ATK当たり人件費は,許容搭載重量1トンを1キロメートル輸送した場合にかかる人件費であり,人件費の生産性を示す指標である。
ATK当たり人件費は,被告(JAL)の91年度実績が23円であるのに対して,外国他社はルフトハンザ航空(LH)を除き被告を下回っていた。
92年度,93年度において,被告はそれぞれ20.3円,19.3円とATK当たり人件費を下げでいるものの,外国他社もルフトハンザ航空を除きそれぞれ下げており,被告は,ルフトハンザ航空を除く外国他社と比べて高かった。
その後被告のATK当たり人件費は,94年度17.9円,95年度16.8円,96年度16.1円と下がり続け,本件変更がされた前年の97年度は15.2円となっていた。
その後,98年度は13.4円(計上しなかった臨時手当分を含めると14.3円),99年度は13.4円,00年度は13.1円となった。
96年度における外国他社との比較では,被告のATK当たり人件費は,ユナイテッド航空(UA),ノースウエスト航空(NW),英国航空(BA)よりも低く,98年度においても同様であり,ルフトハンザ航空,キャセイ航空(CX),シンガポー航空(SQ)が被告より低かった。
イまた,委託人件費相当を込みでATK当たり人件費を見ると,被告では,91年度は27.1円,92年度は24.6円,93年度は23.5円,94年度は21.9円,95年度は20.8円,96年度は20.0円,97年度は19.2円,98年度は18.3円,99年度は17.4円であった。
被告は,97年度においては,「欧米競合他社との格差は一時期に比べて縮小しているが,委託費用の中に含まれる人件費相当額を含めた広義の人件費で比較すると,依然大きな格差がある。」と認識していた。
もっとも,機長組合の試算では,被告の委託人件費込みのATK当たり人件費は,98年度当時欧米他社より低位にあった。
ウ被告における運航乗務員の労働生産性を,有償トンキロを乗員数で除した数値で見て主要航空会社のそれと比較すると,91年度から99年度まで,被告は,ほぼ一貫してシンガポール航空,キャセイ航空に次いで高い位置にあり,欧米主要航空会社より高い水準にあった。
これは,国際線の長大化に伴う1回当たりの飛行距離の伸びと大型機の導入によるところが大きい。
エ被告は,運航乗務職について,93年当時は,「一人当たりの人件費は高いものの,ATK生産性も高いため欧米系の航空会社と比べATK当たり人件費は若干の差にとどまっている。」と認識し,97年度においては,「単位当たり人件費は低下しているが,特に米国においては為替要素もあり増加要因はあるものの,一人当たり人件費の効率化が進んだことから,相対的な格差にほとんど変化はない。」と認識していた。
(2)被告のとった人件費効率向上施策
被告のとった人件費効率向上施策の概要は,別表IXの「コスト構造」欄の「人件費効率の向上」欄のとおりであるが,これを主なものについて詳述すれば,以下のとおりである(長時間乗務手当関係については,項を改めて詳述する。)。
ア被告の基本的考え方
人件費効率向上施策についての被告の基本的な考え方は以下のとおりである。
被告は,過去,機材の大型化や路線便数構成の長距離化等によって生産性の向上を図ってきたが,これらはもはや限界にあり,物的側面からの生産性の向上は期しがたい状況にある。
このことや,被告の賃金は世間相場,競合他社に比べて高い水準にあること,被告のATK当たり人件費は外国他社に比べて高いことから,コスト競争力の強化を図るためには,人的側面からの生産性の向上を検討する必要がある。
そのために,「人員効率の向上」と「単価水準の適正化」の両面から人件費効率の向上を図る必要がある。
前者の施策として,定員の見直し,勤務基準の見直し等により効率の向上を図り,後者の施策として,それぞれの賃金項目に沿って見直しを行い,水準の適正化を図る必要がある。
イ人件費関連施策の実施
上記アの考えの下に,被告は,92年度以降様々な人件費関連施策をとってきた。
これを概観すれば,以下のとおりである。
人員計画の見直し等による人的生産性向上の施策として,間接部門や海外派遣員,海外現地社員の削減,出向者の拡大,特別早期退職優遇措置,転進援助特別休暇制度,管理職進路選択制度,管理職転進支援制度,再雇用型客室乗務員制度の導入,加齢機長の乗務開始を行った。
稼働効率を高めることによる人的生産性の向上施策として,勤務基準の改ページ(14)
定(93年11月実施),客室乗務員の編成数見直しを行った。
低コストの生産体制確立施策として,外国人客室乗務員の拡大,契約制客室乗務員の採用を行った。
単価水準の適正化による人件費効率向上施策として,ベースアップ,ボーナスの抑制,客室乗務員,運航乗務員それぞれの乗務の再編成・適正化,定期昇給停止年齢の前倒し,冬期手当・沖縄夏期手当・沖縄調整手当の廃止を行った。
その他の人件費関連施策として,雇用調整助成金支給対象業種の指定による助成金の受給,部長職年俸制の導入,客室乗務員短期休職措置,社宅料等の改定を行った。
その結果,上記(1)ア,イのとおり,ATK当たり人件費は減少した。
また,ATKの伸びに比べ営業費用はわずかな増加に止まり,人件費は減少した。
ウ98年改定前までの賃金に関する人件費関連施策の主な内容
(ア)93年11月の改定
全職種に共通してベースアップゼロ,臨時手当の削減を行ったほか,主として各職種毎に諸手当の再編成を行った。
地上職について,日曜祝祭日労働手当,土曜日労働手当の定額化を行い,特殊時間帯勤務手当を廃止してシフト勤務者手当を設定した。
寒冷地勤務における冬期手当を改定した。
なお,94年4月から管理職について管理職調整手当の削減をした。
客室乗務職について,特別乗務手当を廃止し,長時間乗務手当を新設した。
深夜就業手当を増額し,土曜日就業手当を新設した。
運航乗務職について,暫定手当,特別乗務手当を廃止し,長時間乗務手当を新設した。
深夜就業手当を増額し,土曜日就業手当を新設した。
機長については,暫定手当を廃止して管理職長時間乗務手当を新設した。
なお,被告は,93年度以降臨時手当の削減を行ったが,この削減の影響は,職種によって臨時手当の算定基礎となる基本給の占める率が違うことから,地上職管理職に最も大きく,運航乗務管理職に最も少なかった。
被告は,この時の改定において,客室乗務職,運航乗務職(機長を含む。)について,勤務基準を改定した。
(イ)96年4月の改定
被告の定期昇給額が世間一般より大きいことから,全職種に共通して,定期昇給制度の見直しをした(基本給につき,号俸の細分化と定期昇給号俸の縮小,加給の定額化)。
職種によって基本給,加給の占める率が違うことから,この影響は地上管理職のほうが運航乗務管理職に比べて大きかった。
また,退職金の基礎額について,基本給のベースアップ分との連動をしないように改めた。
(ウ)96年10月の改定
客室乗務職について,乗務手当の再編を行い,単価を改定した。
従来の乗務手当(65時間の乗務時間を保障し,かつ実乗務時間がこれを超えた場合はその時間分が支払われる。)の月例給与に占める比率が高く,客室乗務職の賃金水準を高くしているため,乗務手当中の客室乗務員の職務内容・技量・責任に対応する部分を特別職務手当,加給相当額及び能力資格手当相当額と合算して客室手当を新設し,この客室手当と新たな乗務手当に再編成した上,乗務手当単価を見直した。
運航乗務員職について,低経験運航乗務員の乗務手当を改定した。
機長については,経験1・2年目,3・4年目の機長の乗務手当の見直し,管理職乗務調整手当を経験年数に応じた手当額とする見直しを行った。
客室乗務職についての乗務手当の再編により,客室乗務員の乗務手当額は従前の93年11月改定前に比べて50パーセント程度低下した。
被告は,運航乗務員の乗務手当については,93年11月より実施されてきた勤務基準改定の効果を見極める必要があるなどとして改定を見送った。
(エ)97年の改定
97年11月から,次長・課長級の地上職,客室乗務職の管理職について,管理職進路選択制度を実施した。
この制度は,これらの管理職が55歳になった時点で,非関連会社への出向,雇用延長,部分就労,関連会社への転籍という4つの選択肢からいずれかを選ぶというものである。
この制度導入により,これらの職の管理職の年収(46歳から54歳までは地上職管理職の年収は1100万円台,客室乗務職管理職の年収は1400万円台)は選択によっては55歳以降それまでの約75パーセントに低下し,額にして約300万円の減少を伴うこともあった。
この制度の適用人数は,97年度から00年度までで1200名を超えた。
なお,運航乗務管理職はこの制度の対象となっていない。
被告における管理職の職種別年収は,被告の試算によれば,92年度を100とした場合,97年度において,地上職は87,客室乗務職は88,運航乗務職は94であった。
エ98年4月改定における賃金に関する人件費関連施策の内容
(ア)全職種に共通して,定期昇給停止年齢の改定(従来の58歳までから55歳までとした。
約6億円減),退職金の改定(水準の減額。
約14億円減),冬期手当等の廃止(約12億円減),海外在勤員給与の見直し(約1億円減),社宅・寮に関わる見直し(約3億円減),客室乗務職,運航乗務職の乗務日当手当の廃止(約7億円減)をした。
他方で,業績評価制度を導入し,業績加算手当を支払うこととした(約9億円増)。
この業績加算手当は,社員の前年度の業績に応じて次年度に支給される一時金に一定割合(A評価の者に0.1か月分,AA評価の者に0.2か月分)を加算する制度であり,業績主義の一層の徹底を図る趣旨で設けられた。
同制度による支給は99年度から実施されたが,01年度実績では,機長では,AA評価を受けた者(機長全体の約15パーセント)が年間約14万円の支給を受けた。
なお,この業績加算手当の新設は,全日航労組の要求を受けて96年から労使間で行われていた協議が整ったことによるものであるが,機長組合はこの交渉に参加していない。
(イ)運航乗務職について,次のとおり乗務手当の再編成等をした(約48億円減。
長時間乗務手当のみでは約12億円減)。
被告は,運航乗務員の年収水準が他社比較及び国内年収分布の位置づけから見て高く,また,これまでの一連の賃金制度の改定により職種間バランスに配慮する必要があるとの考えの下に,この改定を行った。
a運航手当の新設
従来月例給与としては支払われていない加給・能力資格手当の各相当額及び特別職務手当相当額と乗務手当の一部とを合算し,月額で定める運航手当を新設し,基準内賃金の1項目とした。
その額は,運航乗務管理職2,3職級の場合,職級号俸ごとに16万円台から26万円台と定められ,これは定期昇給の対象となる。
b乗務手当単価額の見直し
一般職運航乗務員については,就労時間による調整施策(従来1暦月の乗務時間のみに応じて乗務手当が支払われていたのに対して1暦月の就労時間の2分の1がこの乗務時間を上回った場合にはその分を加算して支払う措置。)をとるなどした上1時間当たりの乗務手当単価を見直し,運航乗務管理職については乗務手当月額(時間当たり単価相当額の65時間分)を見直した。
これにより,改定前の概ね71.6パーセントの水準となった。
c乗務手当の算出方法の見直し
従来乗務時間だけに反映していたものを乗務に付随した業務をも評価して乗務手当に反映させるため,暦月の合計乗務時間と暦月の合計就労時間の2分の1のいずれか多い方を支払対象時間として乗務手当を算出することとした。
d管理職乗務調整手当の見直し
乗務手当の再編成に伴い,管理職乗務調整手当は約30パーセント減となるが,機長の管理職乗務調整手当については,当面見直しをしないこととされた。
e長時間乗務手当の見直し(詳細は,後記5(4)イのとおり)
f深夜就業手当の改定
ページ(15)
乗務手当の再編成に伴い,深夜就業手当1時間当たり単価を増額し,一方これに加算される乗務中の1時間当たり単価を引き下げた。
運航乗務管理職については,これらの基礎額を再設定した。
(ウ)移行措置
上記(イ)の見直しの結果,運航手当,乗務手当の合算額は,改定前の98年3月31日時点の特別職務給,乗務手当の合算額に比し,90パーセントの程度の水準になる。
被告は,経過措置を設け,98年度については改定後の月額乗務手当,管理職乗務調整手当及び運航手当の合計額が改定前の月額乗務手当,管理職乗務調整手当及び特別職務給の合計額を下回らないよう保障し,99年度以降については,98年3月31日時点の改定前の乗務手当の3パーセントを減じた後の合算額を下回らないよう保障した。
なお,後記4(4)イ(ウ)のとおり,長時間乗務手当についても暫定措置が定められた。
(エ)削減効果
上記ウ(エ)及びエ等の人件費削減施策により,98年度は150億円の削減効果があった。
(3)労働組合との交渉経緯等
ア被告は,構造改革委員会の報告を発表して以来,人事関連諸施策の具体化等について,機長組合ら労働組合と交渉してきた。
被告は,随時,実施予定の人件費関連施策の具体策を提示し,コスト競争力をつけるために人件費の見直しを図る必要があることを繰り返し訴えて,組合の理解と協力を求めた。
被告と全日航労組との間では,随時合意が成立したものの,機長組合らとの間では,機長組合らは人件費をねらい撃ちにした費用削減策であるなどとして反対し,合意が成立しなかった。
イ被告と原告らが属する機長組合との間では,93年は21回,94年は13回,95年は10回,96年は13回,97年は30回以上の労使交渉等の折衝が行われた。
被告は,97年11月1日付けで機長組合に対し,「グローバルスタンダード,ナショナルスタンダード,絶対水準,職種間のバランス,労働環境の均衡化を図るため改定の必要がある。」として,「現『中期計画』における賃金制度等に関わる施策の具体案について」(乙32)を提示して,管理職長時間乗務手当の改定を含む98年における賃金改定案を示し,以降,22回にわたって機長組合との間で交渉や折衝を行った。
この間,被告は,修正案を提示したり,97年11月17日から98年3月13日までの間に,「賃金改訂のモデル」等23種類に及ぶ資料を機長組合に提示して説明したりしたが,機長組合から見れば,十分とはいえないものであり,機長組合は,被告の提案に応じなかった。
ウ被告は,全日航労組との合意を踏まえ,順次賃金制度の改定を行ってきた。
上記第2章第1(3)のとおり,全日航労組(01年9月にジャル労働組合と改称)は,地上職及び客室乗務職を組織する労働組合であり,組織率は総従業員の約6割であるが,機長は機長組合に加入しており,全日航労組には機長は加入していない。
被告は,本件変更を含む98年度の改定については,全日航労組の意見を聴取し(ただし,同労組の意見は「意見は差し控える」というものであった。),就業規則を改定した上,所轄労働基準監督署への届出をした。
4長時間乗務手当について
(甲14ないし20,26ないし33,35ないし38,40ないし42,43の(2),44,71,82,83,85,106ないし113,197,215ないし217,220ないし234,257,263の(1),264の(2),280ないし313,316,319ないし322,330,337,338,342ないし345,347,乙20,22,23,47ないし60,91,113,114,116,117,120ないし124,証人P2,同P1,同P3,原告P5本人,弁論の全趣旨)
(1)暫定手当支給に至るまで
ア60年,被告はジェット旅客機を導入し,東京ホノルル線が直行便化されることになった。
これにより,航続距離が長くなったため,61年5月,被告と乗員組合との間で,乗務時間・勤務時間の制限等に関する協定が締結され,例えば予定着陸回数1回の場合には乗務時間9時間,勤務時間13時間を超えて予定しないこととされた。
しかし,実運航においてこの制限を超えるケースが生じたため,被告は,65年12月から順次運航乗務員に対し,制限を超えた実乗務時間について,特別乗務手当を支給してきた。
当時,機長が乗務する場合には,乗務手当,乗務付加手当,特別乗務手当等があったが,70年8月,機長を管理職と位置づける機長管理職制度の導入に伴い,機長は特別乗務手当の対象外とされ,これを含むその他の諸手当に替わるものとして機長に管理職乗務調整手当が支給されることになった。
イ被告は,83年7月から東京ニューヨーク直行便の運航を開始することを計画し,前年より乗員組合と交渉を行った。
乗員組合が,安全及び健康上,長大路線はダブル編成で運航すること等を要求したのに対し,被告は,「ニューヨーク→東京便はダブル編成で実施する。
東京→ニューヨーク便は,本来マルチ編成による運航が妥当であるが,乗務パターン上恒常的に副操縦士のデッドヘッドが発生することから,副操縦士の乗務機会増を図る観点から当面ダブル編成で運用する。」などと回答した。
交渉の結果,被告と乗員組合は,83年6月30日,東京ニューヨーク直行便の運航に関し,東京→ニューヨーク直行便はダブル編成で運航すること,ニューヨーク→東京直行便は当分の間ダブル編成で運用すること,暫定的に乗務時間は15時間,勤務時間は20時間を超えて予定しないこと等を合意し,その旨の協定書を取り交わした。
この協定の内容は機長にも準用された。
以後,東京ニューヨーク直行便は,往復ともダブル編成で運航された。
当時,乗員組合や機長らは,長時間乗務は,1耐え難い眠気と疲労を伴う,2時差による睡眠覚醒リズム障害が生じ,睡眠不足も蓄積される,3生体時計の狂いが生じ,労働環境も厳しいことから,時差症候群となる,4離着陸の負担が大きいなどとして過酷であるとしていた。
この機長らの訴えは,現在でも変わっていない。
ウ被告は,86年4月から欧州・シカゴ直行便の運航を開始することを予定し,前年から機長会や乗員組合らと交渉した。
機長会や乗員組合らは,同便の乗員編成について,ダブル編成での運航を要求したが,被告は,同年3月,マルチ編成で妥当であるが,副操縦士の実乗務機会増の観点から,東京ロンドン,東京パリ,東京シカゴの直行便に限り,同年度末まで原則としてマルチ編成に副操縦士1名を追加して運用し,年度末の時点で見直すと通告した。
マルチ編成に副操縦士1名を追加して運航することは実質的にはダブル編成で運航することを意味する。
しかし,この見直しは行われないまま,上記の乗員編成で運航が行われた。
なお,この通告の当時,被告において副操縦士の数(マンニング)には余裕があった。
また,被告は,86年6月,ロサンゼルスリオ・デ・ジャネイロ直行便の乗務編成についても,これと同様の運用を行うこととし,88年の時点で見直しを行うと通告した。
なお,87年3月段階で,上記欧州線,シカゴ線,ニューヨーク線については,外国他社は被告より1名ないし2名少ない運航乗務員で運航していた。
(2)暫定手当の支給
ア被告は,副操縦士のマンニングが逼迫してきたこともあり,89年3月,機長組合や乗員組合らに対し,南米線,欧州・シカゴ直行便をマルチ編成にすることを提案した。
これに対し,機長組合らは,同年6月,労働条件の全般的見直しの交渉をするよう申し入れ,以後被告と機長組合らとの間で勤務の総合見直しに関する交渉が行われた。
被告は,90年2月,機長組合や乗員組合らに対し,南米線,欧州・シカゴ直行便について,「原則としてマルチ編成に副操縦士1名を追加して運用する措置」を89年度冬期ダイヤで終了する旨及び乗務後に休日を与える旨提案した。
これに対し,機長組合らは,休日付与のみでは不十分であるなどとして反対したため,被告は暫定手当の支給を提案したが,その水準・範囲を巡って合意に至らなかった。
被告は,南米線についてはダブル編成を継続するとしたが,90年5月21日以降欧州,シカゴ直行便について,労ページ(16)
働組合の同意を得ないまま,マルチ編成で運航を行った。
これに対し,乗員組合は,指名ストライキで対抗し,同年5月23日のフランクフルト行きが欠航となる事態が生じた。
その結果,被告は,同年5月31日,機長組合に対し,「欧州・シカゴ直行便等長大路線についてはマルチ編成とするものの,4日乗務後の4日連続休日を確保するとともに,片道6万円の『暫定手当』を支払う。
ニューヨーク線,ロサンゼルス線,南米線の暫定手当については引き続き協議する。」旨を提示した。
また,乗員組合に対しても,同趣旨の内容(額は異なる。)を提示した。
以後,これらの路線に乗務した運航乗務員には暫定手当が支給された。
イ被告は,その後同年9月,ダブル編成で運航されているニューヨーク直行便についても暫定手当を支給することとした。
当時,被告では,B747400型機の導入を巡って乗員組合との間に紛争が生じ,乗員組合は同型機への移行訓練を拒否していた。
被告は,同型機が将来の被告の主力機であると位置づけており,これを重要路線であるニューヨーク直行便に導入するためには早期に紛争を収拾する必要があると考え,同便について暫定手当を支給することとしたものである。
乗員組合は,同型機について3名編成機への展望が開けたとして,移行訓練に応じた。
また,同年10月には,欧州,シカゴ,ニューヨーク直行便の暫定手当額が増額され,同様にマルチ編成で運航されているロサンゼルス直行便についても暫定手当(いずれも定額)が支給されることとなった。
被告は,91年3月,その後開設された東京ワシントン線にもニューヨーク線と同額の暫定手当を支給することとし,同年6月には,夏期のロサンゼルス線についても暫定手当を支給することとした。
その後ダブル編成である東京アトランタ線,東京ロンドン線(B747400型機のみ)についても,暫定手当が支給された。
その後93年夏まで,暫定手当は,額が改定されつつ,支給されてきた。
なお,暫定手当の支給については,賃金規程に定めはなく,被告と機長組合ら間の協定書もないが,両者は,暫定手当の支給について交渉の上合意し,被告は,その結果を機長組合らに通知していた。
(3)長時間乗務手当の新設
ア被告は,機長組合に対し,93年1月,「人件費関連施策について」と題する文書で,諸手当の見直しの一つとして暫定手当の整理・適正化を図ることを提案し,同年2月,「人件費関連施策の具体策等について」と題する文書で,暫定手当を廃止し,長時間乗務手当を新設することを提案した。
機長組合は,これに対し,暫定手当については勤務の総合見直しの中で議論すべきであるとして反対したが,被告は,同年10月31日,機長組合らの同意を得ないまま,就業規則,賃金規程を変更し,勤務基準の改定や長時間乗務手当の設定を含む見直しを行い,同年11月1日からこれを実施した。
なお,客室乗務職の一部が加入している全日航労組は,被告の修正案を積極評価し,長時間乗務手当の新設に合意した。
この時の勤務基準の変更により,被告は,運航乗務員の乗務時間について,それまでの勤務基準では,シングル編成の場合9時間までであったのを11時間までと改定し,マルチ編成の場合12時間までであったのを15時間までと改定した。
イ被告は,それまで特別乗務手当及び暫定手当が支払われていた一般職運航乗務員及び特別乗務手当が支払われていた客室乗務員についても,これらの手当を廃止して長時間乗務手当を新設した。
運航乗務員に対する長時間乗務手当の内容は別紙3のとおりであり,機長に対する管理職長時間乗務手当の適用にあたっては,第2章第1の2(3)のとおり修正されている。
これらの長時間乗務手当は,乗務時間の長さによって支払われるため,この新設により,被告は,路線,編成の如何を問わず対応できることになった。
機長に対する管理職長時間乗務手当は,シングル編成の場合,9時間を超える実際の乗務時間に応じて,一定の時間及び長時間乗務手当単価を乗じて支払われるものとなっており,マルチ編成又はダブル編成の場合は一定の換算率(マルチ編成の場合は6分の5,ダブル編成の場合は4分の3)により乗務時間を換算した上,同様の計算で支払われるものとなっている。
この換算率について,被告は,機長組合に対し,「マルチ編成の場合,理論的には,乗務時間の3分の1を休息していることになるから,この休息時間の2分の1を長時間乗務手当の支給対象外の時間と考えることとして差し引き,残りの2分の1に実乗務時間3分の2を加えて,換算率を6分の5(約83パーセント)とした。
ダブル編成の場合も同様の考え方による。」旨説明したが,客室乗務員の長時間乗務手当の換算率は93パーセントであった。
このことにつき,被告は,「運航乗務員の休息時間は明確であるが,客室乗務員のそれは流動的である。
客室乗務員は12時間のブロックタイムで休息時間を2時間とすると,休息時間の2分の1を差し引けば12分の11(91.7パーセント)となるが,組合と協議して93パーセントとした。」などとして,「この差は適切であり,バランスがとれている。」と説明した。
移行措置を設けた理由について,被告は,「勤務基準の改定による効率向上は2名編成機のほうが3名編成機より大きいから,それまでダブル編成で運航されていた2名編成機であるB474400型機及びMD11型機にマルチ編成で乗務し,かつ乗務ダイヤが11時間30分以上(着陸回数1回)で長時間乗務手当を支払う場合には,それまでの暫定手当額を保障する意味で,移行措置を設ける。」旨説明した。
以後,長時間乗務手当は月額乗務手当のアップに沿ってアップされてきた。
ウ運航乗務員についての長時間乗務手当は,長距離路線に乗務する運航乗務員に支払われる手当であり,どの路線に乗務するかは被告が決めるため,長距離路線に乗務する機会のない運航乗務員には支払われない。
機長に対しては,乗務手当(時間当たり単価相当額の65時間分相当額),管理職乗務調整手当(同15時間分相当額)が,乗務時間の如何にかかわらず毎月支給されるが,管理職長時間乗務手当は,これに加えて支給されるものである。
管理職長時間乗務手当の単価は,乗務手当と乗務付加手当の各時間当たり単価の合計額の2ないし3倍の額となっており,例えばニューヨーク線往復で本件変更前は19万円弱となっていた。
外国他社には,長時間乗務手当に類する手当はない。
全日空には,連続する1回の勤務時間が8時間30分を超えた場合に支払われる運航乗務員特別勤務割増手当がある。
なお,被告においては,一般職乗務員は月間乗務時間と便乗時間の2分の1の合計が65時間を超えると,超えた時間に乗務手当単価分を乗じた額が支給されるが,管理職として扱われている機長については,このような取扱いはされていない。
(4)長時間乗務手当の見直し本件変更
ア被告は,運航乗務員の長時間乗務手当について,運航乗務員の中でも支給を受けるものとそうでない者があること,単価が高いこと,他の航空会社に類を見ない手当であること,職種間のバランスに配慮する必要があることなどから,見直しを行うこととした。
なお,他職種である客室乗務職の長時間乗務手当については,93年度からの数次の改定によって93年度改定前の特別乗務手当と比較してその額は概ね50パーセント程度減少していたことから,見直しを行わないこととした。
イ被告は,98年度賃金制度の改定に際し,第2章第1の2(4)のとおり,長時間乗務手当の見直しをし,機長の管理職長時間乗務手当についても見直し(本件変更)をして,マルチ編成,ダブル編成の時間換算率を見直し,移行措置を廃止するとともに,新たに暫定措置を設け,これを98年4月から実施した。
本件変更についての被告の考え方は以下のとおりである。
(ア)時間換算率につき,休息時間も乗務手当の支給対象時間として乗務手当が支払われているから,より合理的に考えれば,従来のように,休息時間を2分の1とはいえ,長時間乗務手当の支給対象時間に含めることは適当でなく,休息時間すべてを長時間乗務手当の支給対象外とすべきである。
この乗務時間換算率の変更は,客室乗務員について行わない。
これは,運航乗務員の場合は,生産性の要素を反映でページ(17)
きる支払方法とすべく,編成に応じた換算率を乗務時間に乗じることとしているのに対し,客室乗務員の場合は,編成による差はなく,編成により乗務中の休息時間に差が生じないから,乗務中仮眠できる平均時間の2分の1を減じることとしているもので,両者の時間換算率の取り方,考え方が異なることによる。
また,客室乗務員については,乗務手当の再編により単価が下がり,それを基礎に算定する長時間乗務手当額そのものも下がっており,それとの均衡を考慮する必要もある。
賃金改定の目的は人件費水準の適正化にあり,その目的に合わせてどの賃金項目についてどのように見直すのが合目的的,合理的であるかが改定理由に当たるから,その理由が各職種で同じである必要もない。
(イ)移行措置は,被告が93年に暫定手当を廃止し,長時間乗務手当を新設するに当たり,新勤務基準を実施する中で手当制度の見直しについても理解を求めながら円滑に実施していきたいとの考えにより設けられたものである。
しかし,この移行措置は,長時間乗務手当の枠組みと整合せず,その継続は妥当でないから,廃止する。
(ウ)ただし,改定により従来支払対象であった乗務が対象でなくなることや長時間乗務手当額が大幅に減少することからこれらを配慮し,暫定措置として,マルチ編成,ダブル編成における換算率を改定前の率のままとし,適用する長時間乗務手当単価を2分の1とする。
ウ本件変更により,長時間乗務手当単価の計算基礎となる乗務手当単価の見直し(約30パーセント減。
3(2)エ(イ)b)と本件変更による暫定措置としての単価を2分の1とする取扱いにより,本件変更後は,変更前に比べ,管理職長時間乗務手当はシングル編成の場合で約28パーセント,マルチ編成・ダブル編成の場合で約64パーセント程度と,大幅に減少している。
エ機長組合は,長時間乗務手当の切り下げが突出しているなどとして本件変更に反対したが,上記3(3)イ,ウのとおり,被告は,本件変更を含めて機長組合と交渉した後,機長組合の同意を得ないまま,本件変更を行った。
(5)本件変更による不利益の程度等
(甲12,263の(1),317,319,乙65,125,証人P2,同P3,原告P5本人)ア本件変更により原告らが受けた不利益の内容は,第2章第1の3のとおりであり,中には月額20万円ないし30万円,年額にして200万円ないし300万円の減額となる者も多くいる。
原告らの一人平均年額は137万8997円減となる。
本件変更の暫定措置により,時間換算率は据え置かれ代わりに長時間乗務手当の単価が2分の1とされているが,長時間乗務手当の算出基準になる乗務手当単価そのものが約30パーセント下げられているため,長時間乗務手当を2分の1とする改定と併せ,上記のとおり大幅な減額となっている。
暫定措置が廃止され,時間換算率が変更されれば,額自体が減るほか,シングル編成のほかは,マルチ編成の場合は13時間30分以上,ダブル編成の場合は18時間以上,それぞれ乗務しないと長時間乗務手当の支払は受けられなくなっている。
現在被告の路線において,マルチ編成の場合13時間30分以上乗務するのは,時間通り運航されるとすればニューヨーク→東京の2便のみであり,ダブル編成で乗務する便はない。
長時間乗務手当の支払対象となる勤務に就いている機長は,機長全体の約7割に上る。
もっとも,機長によって勤務に就く回数には多寡があり,機長の中では本件変更前の管理職長時間乗務手当支給月額3万円未満の者が過半数であった。
また,被告の判断により機長の乗務する機種・路線室が変更されることから,これによりそれまで長時間乗務手当の支給を受けていた機長でも長時間乗務手当を受けられないことがある。
イ被告では,本件変更により,一般職及び管理職運航乗務員の長時間乗務手当の原資は年間約12億円減少した。
長時間乗務手当の改定による費用削減額は,98年度で,同年度の営業費用1兆1328億円の約0.1パーセントに当たる。
同年度の営業利益は248億円であり,事業収益は1兆1577億円であったことから,この12億円減は事業収入18億円の増加に相当する(甲214,276,証人P4。
乙65,証人P2は,事業収入600億円の増収効果に相当するとするが,前掲証拠に照らし,にわかに採用できない。)。
5機長のコストについて
(甲13,98ないし101,103,198,210,212,213,246,263の(1),318,319,323,339,354,乙44ないし46,91,95ないし98,103,110,116,168ないし170,179,180,証人P1,同P3,原告P5本人)
(1)年収等
ア本件変更当時,機長の年収は,国内年収分布から見て,高い水準にあった。
我が国において,年収2500万円を超える給与所得者は,5000人以上の人員を要する企業においても0.1パーセントである。
欧米主要航空会社では,全ての勤務等を乗務時間に換算して乗務手当単価を掛けて賃金を支払う賃金制度と,全ての勤務等を乗務時間に換算して月間の労働時間制限を行う勤務制度とが複合した「クレジットアワー制度」をとっており,被告と賃金体系を異にしているし,年収の多寡は勤務実態とも関係するから,単純に被告と比較するのは困難であるが,被告の試算では,例えば,ユナイテッド航空のB747400型機の機長の最高年収は約2428万円であった。
機長組合の試算によれば,被告における機長の年収をユナイテッド航空のクレジットアワー制度に換算した場合は約3000万円となった(98年1月当時)。
本件変更後でも,原告らの年収の平均(98年5月分から99年4月分まで)は約2900万円強である。
もっとも,97年当時及び02年で全日空と比較すれば,被告の機長の年収はそれより低い。
イ原告らの乗務実績
機長には,上記4(3)ウのとおり,乗務手当と管理職乗務調整手当が支給され,月額乗務時間80時間相当の賃金保障がされているが,原告らの乗務実績(乗務時間と便乗時間の2分の1の合計)は98年度,99年度は60時間に満たない。
(2)他職種との関係
上記3(2)ウ(ア)のとおり,臨時手当の削減による影響は地上管理職に最も大きく,運航乗務管理職に最も少ない。
上記3(2)ウ(エ)のとおり,地上管理職の年収は,46歳から54歳までは1100万円台,同じく客室乗務管理職の年収は1400万円台であるが,55歳以降は進路選択制度の適用を受けて選択により転籍するなどする者は,前者は1000万円を下回り,後者は1200万円を下回ったりする。
95,96年度実績において,地上職を1とした場合,運航乗務員の一人当たり人件費(年収)は,欧米航空会社が2.30ないし5.76であるのに,被告では2.29であり,欧米航空会社に比べ,地上職と運航乗務員の賃金比率は近接している。
もっとも,地上職の職務範囲は様々であるし,欧米各社では地上職の業務委託は行われていないが,被告はこれを行っており,被告の地上職は基幹業務に従事しているから,被告の地上職に比べ,欧米各社の地上職の一人当たりの人件費は低めとなる。
なお,被告の人件費は,98年は,91年に比べ0.800,95年に比べ0.8798の割合であるが,欧米各社ではいずれも1を超えている。
6外国他社の取組等
(乙10,65,74,88,89,91,証人P2,同P1)
(1)外国他社の取り組み
外国他社においては,英国航空以外の欧米各社は90年代に入ってから軒並み大幅な赤字となった後,レイオフを含む大幅な人員削減や賃金制度の改革等の合理化施策に積極的に取り組み,コスト競争力を強めた結果,94年度から黒ページ(18)
字化している。
英国航空については,既に80年から83年にかけて1万7000名もの人員削減という大きな経営改革を実施したため,90年代には好調な業績を上げるに至っている。
(2)競争力向上小委員会の答申
94年6月,運輸大臣の諮問機関である航空審議会の競争力向上小委員会は,「我が国航空企業の競争力向上のための方策について」と題する答申を行った。
同答申は,緊急の課題となっている我が国の航空企業の競争力の向上のため,航空企業及び行政の双方がとるべき方策をとりまとめたものであるが,我が国航空企業の国際競争力の向上を図るためには,1事業運営の一層の効率化と新たな事業運営環境への対応,2創意工夫によるサービスの充実・多様化,3航空企業間における提携の推進,4関西国際空港の活用,といった課題に適切に対処し,低コスト体質への転換及び収益力の強化を図ることが必要であり,その場合我が国航空企業自らがこれらの課題に積極的に取り組むことにより,国際競争力の向上を図るべきであるとし,航空企業における対策として,1低コスト体質への転換,2収益力の強化をあげ,1低コスト体質への転換として,コストの削減については,他産業と比べて総費用に占める割合が相対的に高い固定費(人件費,機材償却費等)を中心に見直しを進める必要があり,外国航空企業との比較も参考としながら見直しを行い,コストの外貨化,低コスト運航形態の活用,業務の共同化といった手法を用いて,安全性の確保や良質な労働力の確保といった面にも留意しつつ,必要な削減を進めていくことが必要であるとしていた。
7原告らの指摘する経営責任,収支構造上改善効果の大きい方策の存在に関連して(後掲証拠のほか,甲263の(2),329,330,334,358,乙65,91,証人P2,同P1,同P3,同P4)
(1)被告の設備投資
(甲136,137,187,188,189の(2),256,261,333,乙3ないし5,74,75,83ないし86,141,147,150)
ア85年度から90年度の機材費の伸びは,被告が1.86倍であるのに対し,全日空,日本エアシステムはそれぞれ1.97倍,1.98倍であり,被告は,旅客便総生産量(ASK。
「供給座席数×距離」の累計)の伸びにしても他の2社に劣っていた。
91年度当時,景気は低迷していたが,上記1(1)アのとおり,政府機関を初めとする各種の経済研究機関は,1,2年で回復に向かい,今後もGNPは3ないし5パーセントの成長を続けると予測しており,被告も同様の見通しであった。
また,当時,アジア地区を中心として,人・物の流れは拡大傾向にあり,中長期的にみた日本の海外渡航需要は順調であろうと見られていた。
さらに,当時航空業界では,3大空港プロジェクトという大きなビジネスチャンスが到来しつつあり,その進展による需要の拡大が予想された。
しかし,日本発着の国際線旅客に対する被告の供給力は,他社に比較し,相対的に弱体化していた。
また,航空事業では,路線・便数等の行政の認可を得なければ生産量を拡大できないが,航空機・運航乗務員の手当にはかなりの年月が必要であり,権益分配の際に適切に対応できる体制ができていなければ他社に権益を確保されてしまうという事情があった。
そこで,被告は,91年度,シェアが大きければ販売力,価格支配力が強くなること等から,成長している市場においてはシェアの維持が重要な経営政策であり,3大空港プロジェクトに適切に対応して将来の発展に繋げる必要があるが,生産性向上のためには今後5年間で年5.5パーセント程度の事業規模の拡大が必要であると判断して,経営方針として供給の拡大を目指すこととし,大量の航空機材の購入,外国人乗務員の導入,他社への運航委託を次々に行った。
こうした拡大基調は,バブル経済崩壊後の94年度直前まで続けられた。
被告は,92年度から96年度までの今後5年間の年平均投資額を3300億円,投資総額を1兆6000億円とし(内訳は,航空機2500億円,地上設備及びその他設備700億円等),被告グループ内で56機(B747400型機43機,MD11型機10機,B777型機3機)の機材購入を計画した。
その予定投資総額は,91年度期末までの被告の資産総額1兆5802億円を上回るものであった。
上記2(2)のとおり,93年度以降は,被告において毎年投資額の見直しが行われているが,こうした設備投資は,被告の支払利息の増加だけでなく,減価償却費の増加も招いた。
しかし,現実には経済情勢が悪化したため,91年度から96年度までの実際の事業規模の拡大は,実際には3ないし5パーセント程度にとどまった。
被告では,93年度には4機の余剰航空機材(B747400型機3機,B747型貨物機1機)が生じるに至り,これらの機材は米国に保管され,その保管料等は約60億円にのぼった。
被告は,92年度に一部航空機導入の取り止め,延期等を決定し,93年度は3大空港プロジェクト関連投資の大幅見直し等により1500億円の投資削減,94年度は地上資産のリース化等により1500億円の投資削減を行った。
他方,外国他社は,92年の時点で航空機の注文取消,導入延期などの措置をとっていた。
イ被告の旅客を対象とした航空機の営業機数は,90年以降大幅な増加はないものの,大型化が進んだ結果,1機当たりの座席数が増加したため,総座席数は着実に増加している。
しかし,被告が導入した大型機の中で最も代表的な国際線長距離用のB747400型機の1機当たりの1日24時間中の平均稼働時間をみると,IATAのデータによれば,92年度では世界の主要航空会社中最低の7時間33分であり,最高のルフトハンザ航空の15時間09分の半分以下という低稼働状況にあった。
各社とも航空機の新規導入に当たっては,当初稼動が低い水準にある傾向はあるものの,おおよそ24時間中13ないし14時間の水準となっている。
しかし,被告では,導入当初の90年は6時間47分であり,その後次第に上昇したが,94年でも9時間38分と各社と比べて最低の水準となっており,96年は11時間20分に,98年は11時間40分にそれぞれ伸び,その差は締まってきたものの,なお最低の水準にあり,航空機材を有効に利用した座席提供がなされていない状況にある。
その原因は,被告の場合,B747400型機を国内線に投入したことにもあるが,座席利用率が低迷していることも1つの要因であった。
被告の座席キロと旅客人キロの推移をみると,大型機の導入により総座席数が増加するとともに提供座席数が増加し,旅客人キロも増加しているが,座席利用率(旅客人キロ/座席キロ)は,91年度から98年度までを見ると,国際線は伸び悩み,国内線については利用率の低下が著しい。
89年から98年までの航空機投資回転率(営業収入を航空機取得価格で除したもの)を外国主要航空会社と比較してみると(ただし,各社毎に異なるリース化比率,新機材・中古機材比率を捨象したもの),被告は,最下位のシンガポール航空に次いで低い水準にあった。
(2)外国人乗務員の導入及び運航委託
(甲115,118,119)
ア被告は,上記(1)アの経営判断から,事業規模拡大のために乗務員の増加が必要であると判断したが,乗務員の増加には相当の期間を要するため,運行維持能力の補完として運航委託を採用することを計画し,実施した。
被告が運航委託に投じた具体的な費用は以下のとおりであった。
運航委託費92年度93年度
エバーグリーン・インターナショナル航空
185億円120億円
カンタス航空99億円90億円
JUST11億円21億円
JAZ28億円28億円
ページ(19)
(合計)323億円259億円
イ被告は,上記アの運航委託のうち,94年3月21日,エバーグリーン,カンタス航空への運航委託を打ち切った。
(3)販売手数料及び特販費
(甲181ないし184,186,258,352,乙101,134,135,137,138,149,153の(37),153の(54))
ア航空運賃の販売手数料については運輸省の認可が必要とされている(航空法111条)。
90年代の日本地区においては,販売手数料はIATAの定めにより認可運賃の9パーセントとされ,これに基づいて認可されていた。
被告は,98年以降海外地区における販売手数料の引き下げを行ってきたほか,00年8月にIATAの基準が撤廃されたことを受け,01年4月国内での販売手数料を9パーセントから7パーセントに引き下げた。
94年4月新国際航空運賃制度が導入され,新ペックス運賃(新特別遊運賃),IIT運賃(個人包括旅行運賃)が導入された。
新ペックス運賃は,ほぼ実勢価格に準じた水準で設定されたため,それまで格安航空券を利用していた顧客の大部分はこの新ペックス運賃利用者となったとされている。
また,IIT運賃も実勢価格に近づけて設定されたとされている。
被告は,この制度導入に伴って国際線割引運賃(ゾーンペックス運賃)を導入したり,インターネットを利用した予約直接販売を推進したりして販売管理費削減に努めているが,大手外国航空会社も,国際線航空券の販売手数料を引き下げるなどの努力をしており,低価格競争が激化している。
イ(ア)国際線旅客運賃の精算方法として,日本地区では,旅行会社が認可運賃額を航空会社に支払い,搭乗確認後,実際に旅行会社が旅客に販売した価格との差額を航空会社から割り戻しを受ける方法がとられている。
また,被告では,旅行会社が集客した場合,通常の販売手数料にボーナスを上乗せして支払っているが,これは一定の販売額を上げた旅行会社に対する売上報奨金的性格を有している。
被告は,これらを併せた額を特販費(特別販売促進費の意味)と称している。
特販費は,会計上は,これを控除した上で売上げを計上することが認められているため,その具体的な金額はどの帳簿にも記載されておらず,必ずしも全貌は明らかではないが,被告の公表及び乗員組合が公表された代理店手数料率を用いて推計(94年度以降)したところによれば,次のとおりである。
なお,被告は,94年度以降,幅運賃制度が導入されることを理由に特販費の額を公表していない。
91年度2300億円
92年度2300億円
93年度2500億円(以上は被告公表額)
94年度2100億円(以下は乗員組合推計額)
95年度2500億円
96年度2900億円
97年度3188億円
98年度3250億円
以上のとおり,特販費は,増加傾向にあり,被告の経常レベルでの赤字が最も大きかった92年度についてみると,赤字額538億円は売上高の5.2パーセントであるのに対し,特販費は22.2パーセントとなっている。
これは,主に認可運賃と実勢価格の乖離が大きくなっているためである。
(イ)被告は,もともとオフ期の販売促進を目的として旅行会社へのボーナス制度を投入したが,これは,円高メリットを利用して価格攻勢を強める外国他社への対抗策にもなった。
しかし,このボーナス額の多寡が反映されるパック旅行の価格は,被告のブランド力等もあって被告を利用する場合高額に設定されている。
例えば,97年6月21日付け「週間ダイヤモンド」に掲載された旅行社1526社を対象としたアンケート結果(有効回答数120通)によれば,被告は,総合評価では1位であったが,料金に対する評価は,主要航空会社55社中最低であった。
同誌には,ヨーロッパ路線についての販売報奨金の記載があるが,それによれば,日系エアラインはビジネスクラスの片道正規料金43万7400円に対し正規の発券手数料9パーセントのほかに4万円,欧州系中堅エアラインでは10万円の販売報奨金を支払っている旨記載されている。
(4)ドル為替予約
(甲54,115,124ないし127,130,248,乙141)ア被告は,円安ドル高傾向が今後も長期にわたり続くと予想して,85年8月から翌年3月にかけて最長10年にわたる長期の為替買入予約(以下「本件為替予約」という。)を行った。
被告が行った先物予約は11年間で平均1ドル=185円で,合計約36億6000万ドルとなっている。
ところが,ドル相場は被告の行った予約開始から約2か月後のプラザ合意を機に長期の円高に転じたため,結局は,為替差損が発生した。
各年度に発生した為替差損は以下のとおりであり,決済の終わった94年度分も含め,確定した実損の総額は約1763億円,95年,96年度の損失額の見込みも加えて,損失は2200億円に達する。
予約年度ドル予約額レート実勢レート為替損益推計
(百万ドル)(円)(円)(億円)
(未満4捨5入)
853184221・68///
86287195159・88101
87323191138・45170
88331192128・27211
89331192142・82163
90332191141・52164
91326186133・31172
92331186124・73203
93393184107・79300
9434717998・59279
95488171//////439
(96年度込)
96168155//////
イ為替が変動相場制の下では,外貨取引の非常に多い企業では常に為替リスクにさらされているため,為替の変動によって被りかねない損失に備え,リスクヘッジのために一般的に為替予約を行っている。
被告も,航空機の購入等により恒常的に大量のドルを必要としているため,リスクヘッジのため為替予約を行っていた。
被告は,将来必要とされるドル需要の3分の1について本件為替予約を行ったが,それは,為替相場が予約条件に照らし不利な方向に進んでもその影響は3分の1に止まり,残り3分の2は不利を免れるからであった。
なお,被告では,81年度にドル建て・マルク建てで長期為替予約を行い,これにより54億円の差益を得たことがあり,同年度は羽田沖事故による需要減退があったため経常利益が2億円しかなかったにもかかわらず,このドル建て・マルク建て長期為替予約差益が54億円生じたため,配当が可能となったことがあった。
85年8月,本件為替予約前に担当部門から意向打診を受けた監査役は,10年間もの長期予約を行うことについページ(20)
て,将来の長期の為替の動向は不確定要素が多く予想し難いことなどから,「極めて危険である」として翻意を促していた。
また,当時の経済記事の中には,今後ドル安になると指摘するものもあった。
本件為替予約にかかるドルは,航空機購入の支払に充てられているため,帳簿上は差損が表面化せず,実損額も決算報告されていない。
しかし,本件為替予約による為替差損のため,円換算では1機当たり他社より約80億円高い航空機を購入したことになっただけでなく,90年度以降毎年約60億円程度減価償却費が増加することとなった。
(5)関連会社・子会社への投資等
ア日本ユニバーサル航空(JUST社)
(甲115,120ないし122,131,132,乙141)
国内航空貨物輸送会社であるJUST社は,早朝・深夜の旅客便に搭載されない,いわゆる「オーバーフロー貨物」の摘み取り,宅配貨物の航空移転を見込んで,91年1月11日に被告,日本通運,ヤマト運輸の合意に基づき設立された(同年12月時点での被告の出資率は69.3パーセント,出資額は7億500万円)。
そして,同年10月16日から専用貨物機を羽田札幌線に就航させ,運航を開始したが,新千歳空港の24時間運用化の遅れにより,当初計画していた早朝・深夜の1日2便往復体制が1日1便往復での運航になったことに加え,貨物需要が当初の見込みを大幅に下回ったことから計画どおりの運航ができず,92年9月に日本通運とヤマト運輸から,同年10月からの積み荷保証の打ち切り通告を受け,運航開始から1年後の同年10月1日に運航休止となった。
この運航休止に至る間の赤字補填のため,被告はJUST社に対し約8億円の追加投資を行った。
また,JUST社設立に当たり貨物用航空機が必要となったため,被告は,急遽,海外他社から中古旅客機を購入し,貨物機への改造を行い機材を仕立てたが,改造費が予定を大幅に上回ったため,新品を購入するよりも高額の200億円を要することになったものの,当該改造貨物機((1)アのB747型貨物機)は,JUST社の不振からJUST社に購入させることができなかった。
また,JUST社の乗務員についてはほとんど外国人運航乗務員に頼っていたため,運休になった後も,免許維持のために,運航乗務に就かない外国人運航乗務員に賃金の支払を続けた。
しかし,JUST社は,結局,その後免許も失効し,運航不可能な状況で会社だけが存続していたが,97年度決算では,16億9800万円の損失を計上し,資産価値は5億3200万円まで下落し,99年3月解散した。
なお,JUST社の累積損失は約24億円に達するが,被告は,98年3月期にJUST社の株式の評価替えを実施し,それに伴う特別損失約17億円を計上した。
イシテイ・エアリンク株式会社(CAC)
(甲115,120ないし123,255)
CACは,都市間の新しい高速公共交通機関として,本業とのネットワーク効果を考慮して開始された事業であり,主として,羽田空港・横浜成田空港間のヘリコプターによる旅客輸送を行う目的で,87年6月3日に設立された。
しかし,就航率,ヘリポートの設置,空港内のアクセス・発着枠・運用時間帯などの事業を左右する技術上の諸問題の解決や諸規制の緩和がなされず,累積損失を重ねた上,収支の改善は困難と判断されて,91年11月運休となり,92年に解散した。
この間,被告は,合計3億8800万円を投資したが,CACの累積損失を解消するため,92年度,CACに対し約10億円の追加投資を行った。
その後,被告は,株式を13億7800万円で取得しながら95年度に清算し,13億1100万円の損失を出した。
CACについては,当初から運行関係者から技術的な問題点を指摘されていた。
ウ日本航空開発(JDC)
(甲56,57,59,63ないし65,67,68,115,129,130,191,209,247,251,252,259,乙141,153の(24))
日本航空開発(JDC。
その後「ジャルホテルズ」と改称)は,資本金120億円,被告が67.1パーセントの株式を有する子会社であり,「ホテルを世界的に展開しようとするならアメリカでの知名度を得ることが不可欠」であるとして,エセックスハウス(ニューヨーク),日航サンフランシスコ,シカゴ日航,日航香港などのホテルを所有直営方式で展開してきた。
そのうち,エセックスハウス・ホテルは,84年,JDCが,不動産鑑定機関の正式な鑑定書によることなく,マリオネット社からその言い値の1億7500万ドル(当時の為替レート1ドル=240円で換算すると420億円)で購入したものである。
同ホテルは,ニューヨーク・マンハッタン地区にあるが,同地区の相場は,高級ビルでも1平方メートル当たり3200ないし5400ドルであると言われていたのに,その取得価額は1平方メートル当たり1万8000ドルとかなり高額であった。
また,その購入資金は,合計1億7500万ドルの借り入れで賄ったが,うち80パーセントに当たる1億4500万ドルは米国日本生命から平均年利12パーセントで借り入れるというものであった。
被告監査役による87年3月20日付けの「JDC監査の報告」では,JDCについて,「同時並行的な急激なホテル展開により,早晩,財務的に破綻に瀕するほどの経営状況にあり,JDCの招く経営破綻は,その規模からいっても,単に1子会社の問題にとどまらず,親会社の大きな負担となり,その経営にも重大な影響を及ぼすおそれが多分にあるもので,事業運営の意義は全くない。」旨指摘されている。
また,この監査報告書では,「エセックスハウス・ホテルの問題解決なくしては,JDCの経営の建て直しはあり得ず,同ホテルについては,経営のメドが立たない場合には,たとえ,現在,損失を被ることがあっても,エセックスハウス・ホテルを売却し撤退を行ってでも,今後被る莫大な損失を防止すべきである。」旨指摘されている。
しかし,JDCは,89年には,5400万ドルの見積もりで同ホテルの改修工事を行い,超過分として更に1億4100万ドルの費用をかけており,その総コストは購入価格の倍以上にも上った。
また,被告は,89年に米国ホテルへの投資会社としてPWC社(PACFICWORLDCORPORATION)を米国に設立し,当時約191億円の投資を行い,92年には更に約62億円もの投資を行った。
この62億円の投資の目的は,主にエセックスハウス・ホテルの改装資金及び上記の高利借入金の返済に充てるというものであったが,当時被告は,同ホテルは,10年以内に単年度黒字化できるとの見通しを持っていた。
このように,被告がエセックスハウス・ホテルへの投資を続けたのは,元来ホテル事業は装置産業であり,収益を上げるようになるまでに長期間を要するものとの考えからであった。
しかし,その後エセックスハウス・ホテルは赤字を出し続け,被告及びジャルホテルズらは,97年6月,JDCの子会社である米国JDCに対し,なおも319億円(被告分は252億円)に上る財務支援を行い(この追加投資について,被告は,「特定金銭信託」として処理した。),その他修理,運営維持費用を併せて900億円以上の費用をかけたが,結局,99年1月24日に米ホテル運営会社に2億5000万ドル(約286億円)で売却することを発表した。
被告は,97年度にPWC社への投資分252億円全額を損失計上し,98年度にJDCについて合計343億円を投資し,135億円を評価損とした。
JDCの純資産は9億円となった。
99年4月,ジャルホテルズと日本航空ホテル株式会社が合併したが,その際被告は250億円を融資した。
また,被告は,その他の日航サンフランシスコ,シカゴ日航,日航香港のいずれからも撤退した。
エ常電導磁気浮上式鉄道(HIGHSPEEDSURFACETRANSPORT(HSST))(甲,116,130,131,172,153の(24))
被告は,71年から都心成田空港間のアクセスとして,HSSTを開発してきたが,85年に,それまで約52億ページ(21)
円を投下していたHSSTの一切の技術等を,1億2000万円で株式会社エイチ・エス・エス・ティ(以下「HSST社」という。)に譲渡した。
しかし,HSSTは事業化のメドがたたず,しかも開発資金の大半を借入金に頼っていたために,HSST社の負債は92年9月ころの時点で約90億円に上り,その経営は行き詰まった。
その結果,93年1月同社の負債を整理し,同社の営業権・特許権を引き継ぐ新会社エイチ・エス・エス・ティ開発株式会社(以下「HSST開発」という。)が大手企業49社の出資を受けて設立された。
同社の設立に当たって,被告は,25億8000万円を出資し,HSST社が抱えていた債務のうち,約8億4000万円の債権を放棄した。
HSST開発へのこの投資について,被告は,「新技術の優位性は高く評価されており,愛知県東部丘陵線・横浜ドリームランド線はHSSTの採用を正式に決定している。
技術水準は既に事業化段階にあり,具体的誘致案件の実現性が高いことから,出資を決定した。
新会社は,96年度には単年度黒字化,00年には累損一掃,01年には5パーセント程度の配当を開始する予定である。」旨の説明をした。
しかし,愛知県東部丘陵線・横浜ドリームランド線におけるHSST採用は事実ではなく,結局,平成9年度決算では,HSST開発は20億5000万円の損失を計上し,その資産価値は5億3000万円まで低下した。
被告は,00年,HSST事業から撤退した。
オPPH(PANPACIFICHOTELIERSINC.)
(甲60,257,乙153の(24))
被告は,米国ハワイ州オアフ島西海岸のコオリナ地区のリゾートの開発・経営を目的として,78年4月18日設立のPPHを88年3月に買収して,同社を被告の子会社にし,これらのために90年度に35億円,91年度に95億円等合計210億円を投資した。
被告がコオリナ・リゾートの開発を計画したのは,ハワイの旅行商品価値を高める目的であったが,同リゾートは,コオリナ・ゴルフ場(90年完成)とイヒラニ・リゾート&スパホテル(93年完成)は完成したものの,ショッピングセンターについては着工未定となっている。
そして,被告は,PPHについて,97年度決算で,これまでの全投資額210億3400万円を損失として計上した。
コオリナ・リゾートの経営はその後も赤字が続き,上記資産は,99年10月に米国の会社に売却され,被告は同リゾート事業から事実上撤退した。
カOCDC(OCEANCLUBDEVELOPMENTCOMPANYINC.)(甲58,59)
被告は,90年,ハワイ島コナでゴルフ場付住宅の開発を行うこととし,同年被告の100パーセント子会社であるOCDCが出資したホクリア開発が設立された(被告はその筆頭株主となった。)。
ホクリア開発は,98年からゴルフ場及び住宅の建設を開始したが,見通しの暗い事業となっている。
この間,被告は,90年度から97年度までの間に合計72億6600万円を出資している。
なお,その他にも,被告は,海外のホテル・リゾート関連で少なからぬ損失を出している。
キ本社ビル建設
(甲54,116,132,172,193,253,254,260,330,356,359ないし362,364)
被告は,92年,賃借料支出が増大し,また事業所分散による業務上の非効率があるなどとして,都内事業所を統合した本社ビルを建設するため,約500億円を投資することを決定し,同年8月,α(品川区β)に本社ビルを建設するための土地を取得した。
当初の被告の説明では,被告の出資額は子会社(グローバルビルディング社)へ約10億円,その他都内の社宅跡地5か所のみであり,これにより30年間で400億円の経済効果があるなどとしていた。
しかし,予想と異なり,被告の子会社への投資額は92,93年度で合計116億円,99年度に22億円となり,00年度までには190億円を超える債務保証も行っている。
ク日本飛行船株式会社
被告は,84年,飛行船を利用した宣伝活動やイベントへの参加を目的として日本飛行船株式会社を設立したが,同社は9億円の負債を抱えて整理され,被告は事業清算費として11億円を計上した。
ケ新会社への投資等
(甲48,乙3,153の(31))
被告の策定した「9394年度サバイバルプランと97年度の中期展望」では,原則として新規案件は凍結するとされていた。
被告は,定期航空運送事業に必要な一部機能(空港旅客業務や販売業務等)を効率的に遂行するための子会社設立は,この方針の対象外であるとして,93年度以降98年度まで合計137億3200万円の新会社への投資を行った。
被告において,98年度に関連会社株式投資額が増加しているが,これはジャルホテルズの債務超過の回避のため増資したこと等が原因である。
また,子会社・関連会社数が56社増加しているが,これは,主にこれらを連結決算の対象に含めたためである。
第3本件変更の合理性について
1本件変更の必要性について
(1)被告の経営状況について
ア93年度までの状況
被告は,74年度,75年度,82年度,85年度に一時的に経常損失を計上したことがあるほかは,例年経常利益を上げてきていたが,91年度以降93年度まで3期連続の赤字となり,特に92年度の経常損失額は538億円と創業以来最高の額であり,それまで赤字になっても短期で業績を回復してきた被告にとって,このように3期連続で経常損失を計上したのは極めて異例のことであった。
営業損益についても同様で,被告は,74年度,75年度,79年度,82年度に一時的に営業損失を計上したことがあったほかは,例年営業利益を上げてきていたが,91年度以降93年度まで3期連続で巨額の赤字となり,特に92年度の営業損失額は481億円と創業以来最高の額であり,このように3期連続で営業損失を計上したこともまた,極めて異例なことであった(以上第2の1(1)ア,イ)。
この間,被告は,91年度は109億円,92年度は208億円,93年度は383億円の資産売却をしているが(第2の1(1)イ),この資産売却がなければ経常損失,営業損失の額はさらに増えていたものである。
また,被告は,92年度にB747400国際線型機材について,93年度にそれ以外の航空機材について,それぞれ減価償却期間の延長を行い,それによって税引前当期純損失は少なく表示されており(92年度は86億円,93年度は86億円+178億円。
第2の1(1)イ),これらの措置がなければ経常損失,営業損失額はさらに大幅に増えていたものである。
原告らは,被告は,それまで航空機材について過大な減価償却を行っていたこと等から被告の利益はより大きかったと主張するが,そうであるとしても,これらがなければ経常損失,営業損失額はさらに大幅に増えていたことには変わりがない。
しかも,営業収益も,それまでは経常損失を計上した年度でさえ,若干なりとも増加していたが,91年度以降93年度まで3期連続で減少している(第2の1(1)ア,別表I)。
また,被告の営業収入の65パーセントを占め,被告の収支に重要な影響を持つ国際線収入が,それまでは伸びを示していたのに対し,91年度以降93年度まで3期連続で,かつ営業収入全体のマイナスを上回る割合で減少を続けており(第2の1(1)ア,同(3)ア,イ,別表I,IV),被告の国際線旅客便の供給シェアも,87年度に34パーセントであったのが,90年度には24パーセントにページ(22)
まで低落していた(第2の1(3)オ)。
このように3期連続で,営業収益が減少し,また資産売却,航空機材の減価償却期間延長の措置をとったにもかかわらず,経常損失及び営業損失を計上し,特に92年度は過去最高の経常損失を計上したことからすれば,被告の経営状況が悪化していたことは明らかである。
しかも,被告の営業収入の主要部分を占める国際線収入の分野での収入減の割合が大きく,経常利益を上げていた90年度ころから既に被告の国際線旅客便の供給シェアが低下する傾向があり,被告の国際競争力は相対的に低下していたと窺われることからすれば,被告において,今後も営業収入減,経常損失及び営業損失を生じ続けることが予想される状況であったということができ,このような状況は,被告が危機感を抱くのに十分な事態であるというべきである。
このような,3期連続の経常損益,営業損益の赤字,国際競争力の相対的低下傾向という事態が放置できるものではないから,当時の被告としては,これに対処するための諸施策を早急に講じる必要があったということができる。
イ94年度以降97年度までの状況
その後,被告の経常損益は,94,95年度はそれぞれ28億円,44億円の黒字となり,96年度は170億円の赤字であったものの,本件変更の前年度である97年度は再び77億円の黒字となっている(第2の1(1)ウ)。
営業損益は,94年度は99億円の赤字であったが,95年度以降97年度までそれぞれ154億円,46億円,310億円と黒字であり,特に97年度の310億円の黒字は,86年度以降の12年間において4番目に高い数字となっている(第2の1(1)ウ)。
国際線収入も,94年度以降97年度まで前年比増を続けている(第2の1(3)ウ)。
しかし,この間,被告は,94年度は458億円,95年度は248億円,96年度は78億円の資産売却をし,また,95年度は航空機を除く有形固定資産の減価償却方法を変更して税引前当期利益を109億円増加させており(第2の1(1)ウ),これらや既にそれ以前に行った資産売却,航空機材の償却期間延長措置をとらなければ,96年度末において累積欠損金は950億円となっていたものである。
また,97年度においては,71億円の資産売却をし,機種ごとの減価償却期間を定めて改めて税引前当期純損失を173億円減少させてようやく営業利益,経常利益を計上しているものである(第2の1(1)ウ)。
また,被告は,同年度において,資本準備金等合計1517億円を取り崩して,本体の累積損失576億円,関連事業損失等970億円を一掃しているが(第2の1(1)ウ),このような巨額の累積損失,関連事業損失等があることは,企業の財務体質が健全なものとはいえないことを示すものであるし,その一掃のために資本準備金等を取り崩すことも,これを内部留保とみても,企業にとっては異例のことというべきである。
こうしてみると,被告の経営状況は,96,97年度においても,なお,十分に改善されていたとはいえない。
(2)収支構造からみた経営状況悪化の原因について
ア91年度から93年度までの状況
被告においては,91年度から93年度にかけて営業収益が減少し,被告の主要な収入源である国際線の旅客収入・貨物収入が91年度から93年度にかけて,営業収入全体の減少を上回る割合で減少しているが,その大きな原因は,91年ころからの世界経済の低迷,我が国におけるバブル経済の崩壊(第2の1(1)イ)にあるということができる。
しかし,被告においては,80年以降高い伸びで順調に増加していた国際線収入が,営業収入水準の最も高かった90年度には2.7パーセント増加にとどまり,その伸びが鈍化していること(第2の1(3)イ)からすれば,既にそのころから国際線収入の伸びにかげりが見えていたということができる。
また,上記(1)アのとおり,同年度において,国際線営業収入は増加していたにもかかわらず,国際線旅客便の供給シェアは低落している。
他方,旅客数は,営業収入水準の最も高かった90年度と比較しても,93年度,94年度は増加しているが,イールドは90年度以降急激に下降しており,このイールドの低下は,運賃単価の低下が原因であり,それは消費者の低価格志向,高額商品の需要の減少,価格競争の激化が原因である(第2の1(3)ウ,エ)。
これらのことからすれば,上記営業収入減少の原因として,被告の国際競争力の相対的低下,運賃単価の低下もあったということができる。
そして,運賃単価の低下をもたらす消費者の低価格志向,高額商品の需要の減少,価格競争の激化は,厳しい経済状勢からして今後も強まることがありこそすれ,一過性のものとは考え難いというべきであるから,被告において,今後のイールドの伸びは容易に期待できないものであったというべきである。
イ94年度以降の状況
94年度以降97年度まで,被告の国際線旅客数は増加し(97年度は前年比減少),旅客収入も増加している(第2の1(3)ウ)。
しかし,イールドは94年度以降も低下したままであり(第2の1(3)エ),その原因である運賃単価の低下をもたらす消費者の低価格志向,高額商品の需要の減少,価格競争の激化がなお続いていることを示している。
(3)営業費用からみた経営悪化の原因について
ア91年度から93年度までの状況
被告においては,90年度において,営業費用のうち固定費が57パーセントを占めており,固定費の伸びが生産量の伸びを上回るようになった(第2の1(4)ア)。
被告のB/EとL/Fの関係は,91年度以降B/Eが傾向として上昇し,L/Fが傾向として低下していることから,B/EがL/Fを上回り,営業レベルでいえば,収支が均衡しない状況となった(第2の1(4)エ)。
また,単位当たりコスト(ドル建て)を欧米他社と比較すると,90年度以降,被告の単位当たりコストは上昇し,92年度ころには,欧米他社より3割ないし5割高くなった(第2の1(4)ウ)。
これらのことからすると,営業損益の悪化は,単位当たり収入(イールド)の低下と単位当たりコストの上昇にあったということができ,営業費用のうち過半数の割合を占める固定費の伸びがB/Eの上昇に影響を与えたことは否定できない。
B/E,L/Fによる分析は,営業レベルのものであり,経常損益レベルで収益構造を検討するものではないが,被告においては,営業収入自体が減少し,91年度から93年度にかけて3期連続で営業損失を計上しており,その額は,91年度及び93年度では経常損失を上回っていることからすれば,営業損益の悪化は無視できない問題であり,また国際競争激化の中で生き残りを図るためには,営業レベルでの問題を分析する必要もあるから,営業レベルでの分析であるB/E,L/Fによる分析にも一定の意味があるものである。
固定費のうち,人件費についてみると,運航乗務員の労働生産性は高いが,それは主として,国際路線の長大化に伴う1回当たりの飛行距離の伸びと大型機の導入によってもたらされたものである(第2の3(1)ウ)。
被告においては,それはもはや限界状況にきており,大型機の導入が遅れている外国他社と異なり,この面で生産性を向上させることは困難な状況にあった(第2の3(2)ア)。
固定費に占める人件費率は被告は欧米主要航空会社と比べて低いが(第2の1(4)イ),運航委託費(第2の7(2)ア)を含めて比較すると,単純に被告が低いということもできない。
これらからすれば,当時被告は,人件費について一定の施策を講じる必要はあったというべきである。
イ94年度以降の状況
94年度以降96年度まで,B/Eは下降傾向にあり,L/Fは緩やかな上昇傾向にあるものの,引き続きB/EがL/Fを上回り,その赤字幅は小さくなったものの,営業レベルでいえば,収支が均衡しない状況が続いている。
もっとも,97年度はB/EとL/Fがほぼ均衡している(第2の1(4)エ)。
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また,単位当たりコスト,(ドル建て)の外国他社との比較でも,被告のコストはなお高く,96,97年度に下降し,97年度には英国航空より若干下回ったものの,それ以外はなお欧米他社に比べて高い数値となっている(第2の1(4)ウ)。
なお,現実に被告が国際航空会社として外国他社と競争している以上,被告が支出すべき実金額についての外国他社とのコスト比較は現実の為替レートで換算して比較するのが相当であるから,購買力平価で換算して比較することは相当とはいえない。
これらのことからすると,営業損益に関し,被告では,単位当たり収入(イールド)の低下が続き,他方これに見合うだけの単位当たりコストの改善はされていなかったということができ,また,被告のコストはなお国際競争力を有するに至っているとはいえないと言わざるを得ないから,営業費用のうち過半数の割合を占める固定費の削減はなお必要であったということができる。
なお,被告では,91年度以降外国他社と比べて単位原価より実収単価の下落が大きいが(第2の1(3)カ),このことは実収単価の向上を図る必要性があることを示すとはいえても,単位原価の引き下げを図る必要性を否定するに足りるものではない。
ウ機材費等について
(ア)航空運送事業は,航空機の購入をはじめ巨額の設備費を必要とし,その借入金に対する支払利息が巨額の営業損失となるという構造的体質を持っている(第2の1(2)ア)。
被告の85年度から90年度における機材費の伸びが1.86倍であるのに対し,全日空,日本エアシステムの機材費の伸びがそれぞれ1.97倍,1.98倍であること,被告は,旅客便総生産量(ASK)の伸びにしても他の2社に劣っていること(以上第2の7(1)ア)や,機材の更新は本来的に必要であること,大型機の導入は,運航乗務員1人当たりの生産性を高めることになることからすれば,航空機の購入を含む被告の設備投資(航空機については,92年から96年までの5年間に56機,年平均投資額2500億円の計画。
第2の7(1)ア)は,その程度はともかくとして,必要であったということができる。
しかし,反面,設備投資の増大は被告の機材費を上昇させることになること,しかも被告においては,主要な大型機であるB747400型機の稼働時間は,他社と比較して92年度以降短く,座席利用率も国際線は伸び悩み,国内線は低下しているほか,遊休化している機材もあること(第2の7(1)ア,イ)からすると,B747400型機が国内線にも多く使用されていたことを考慮しても,被告のした設備投資には需要を超える面があったというべきである。
(イ)また,94年3月にエバーグリーン・インターナショナル及びカンタス航空に対する運航委託を打ち切っていること(第2の7(2)イ)からすると,実際には,運航委託に一部不要なものがあったことも否定できず,これも被告の人件費を上昇させるものであったということができる。
(ウ)被告のした上記(ア),(イ)の設備投資及び運航委託は,90年度末,91年度末の今後5か年度の事業展望において,各5年間の事業拡大規模を年度平均6パーセントとしたことを前提に行われたが,この間の実際の事業規模の拡大が3ないし5パーセントにとどまった(第2の7(1)ア)。
この違いにより,結果として設備投資が需要を超えることになり,また,運航委託にも一部不要なものがあった結果となったということができる。
しかし,当時政府機関や各種経済機関は91年度以降もGNPについて3ないし5パーセントの成長を続けることを予測していたこと,中長期的には日本の海外渡航需要は順調であろうと予測されたにもかかわらず,被告の国際線旅客便に対する供給力が低下しており,シェアの維持は被告にとって極めて重要であったこと,3大空港プロジェクトの進展による需要の拡大が予想されたこと,一方,イールドの伸びは将来的に期待できなかったこと,3大プロジェクトに備えるための機材の準備や運航乗務員の確保は短期間に行えるものではないことなどの事情があったこと(第2の1(1)ア,(3)エ,第2の7(1)ア)からすれば,上記のような結果を招いたからといって,設備投資及び運航委託に関する被告の経営判断が誤りであったとすることはできない。
とはいえ,結果として,設備投資が需要を超え,そのため支払利息や減価償却費が増加しているし,運航委託の一部に不要なものがあったのは事実であるから,それらが被告の経営状況の悪化の一因となっていることはやはり否定できない。
エ販売手数料及び特販費について
(ア)被告は,日本地区における旅行会社への販売手数料を01年4月以降それまでの9パーセントから7パーセントに引き下げているが,これはそれまでの販売手数料額についての制限が撤廃されたことを受けたものであり,それまでは販売手数料の引き下げができなかったものである(第2の7(3)ア)。
被告が98年以降海外地区での販売手数料を引き下げたり,直接販売を推進するなどしていること(第2の7(3)ア)からすれば,被告が旅行会社との関係で被告に有利な販売努力を怠っているとはいえない。
(イ)国際線旅客運賃の精算方法として,日本地区では,旅行会社が認可運賃額を航空会社に支払った上,実際の販売価格との差額を航空会社から割り戻す方法がとられているから(第2の7(3)イ(ア)),この割り戻しを行うこと自体はやむを得ないものである。
また,被告は,旅行会社が一定の集客をした場合,ボナスを支払っているが(第2の7(3)イ(イ)),運賃単価の低下をもたらす原因である消費者の低価格志向,外国他社との競争の激化を考えれば,被告も運賃単価を低価格化せざるを得ず,さらなる売上高の減少を防ぐためには,このボーナスを支出する必要があったというべきである。
97年時点でさえ,被告の料金に対する評価は世界の主要航空会社中最低であり,例えばヨーロッパ路線について,被告のキックバックが欧州系中堅エアラインの半額以下であること(第2の7(3)イ(イ))からすれば,被告のこの支出が直ちに不必要あるいは不適切といえるほどの額であったとまではいえない。
したがって,被告の特販費の投入に運賃単価の低下をもたらした面があったとしても,直ちに被告に責任があるとすることはできない。
(ウ)以上のとおり,販売手数料,特販費の問題が被告の業績悪化の原因であるということはできない。
(4)営業外損益からみた経営悪化の原因について
ア91年度から93年度までの状況
上記(3)ウ(ア)のとおり,航空運送事業は,航空機の購入をはじめ巨額の設備費を必要とし,その借入金に対する支払金利が巨額の営業損失となるという構造的体質を持っている。
被告の支払利息は,92,93年度は400億円以上と大幅に増大しているが(第2の1(2)イ),これは,巨額の設備投資に伴う借入金の支払のためであり,上記(3)ウ(ア)のとおり,需要を超えた設備投資がその一因であるから,この支払利息の増大という面からしても,被告のした設備投資が被告の経営状況悪化の一因であることは否定できない。
イ94年度以降について
被告の支払利息は,94年度以降97年度まで,400億円台半ばから350億円台半ばに推移しており(第2の1(2)イ,ウ,別表I),被告のした需要を超えた設備投資の影響がなお続いているということができる。
ウドル先物予約について
被告は,85年8月から翌年3月にかけて最長10年にわたる長期の為替買入予約(本件為替予約)を行ったが,ドル相場が被告の行った予約開始から約2か月後のプラザ合意を機に長期の円高に転じたため,巨額の為替差損が生じている(第2の7(4)ア)。
被告は,為替予約したドルを航空機購入の支払に充てたため,帳簿上は差損を生じていないが,円高により,円換算すると,1機当たり他社より約80億円高い航空機を購入したことになっており,営業費用のうちの機材費(固定費)を増加させることになったと同時に,90年度以降,営業外費用のうち,減価償却費を毎年ページ(24)
約60億円増加させることになっている(第2の7(4)イ)。
したがって,本件為替予約の結果も営業外収支に影響を与えているものである。
被告のような,航空機の購入など外貨取引の多い企業にとって,将来の為替変動によって被りかねない損失に備え,リスクヘッジとして為替予約を行うこと自体は当然の措置であるということができる。
これに対し,最長10年にもわたる長期間の為替予約を行ったことについては,一般的には長期にわたる為替変動の予想が困難であると考えられることや,これについて監査役が翻意を促していたこと(第2の7(4)イ)からすれば,相当問題のある措置であったというべきである。
しかし,過去に被告が長期間の予約で為替差益を上げたこともあったことや,本件為替予約でカバーしたのは被告のドル需要の3分の1であり,残りの3分の2は差損を被っていないこと(第2の7(4)イ)からすると,本件為替予約が経営陣として許されない判断であるとまでは直ちにいえないし,同様に,相場の変動の予測は容易ではないと考えられるから,いったんした本件為替予約を解消したり,長期間の為替変動に対処するための他の有益な方法をとらなかったからといって,これが直ちに誤りであるとすることもできない。
とはいえ,結果として巨額の為替差損をもたらしていることからすれば,本件為替予約は結果として失敗であったと評価せざるを得ないものであり,これが営業外収支に影響を与えたことは上記のとおりである。
エ子会社・関連会社に対する投資等について
被告の子会社・関連会社への投資及びその損失については,上記第2の7(5)のとおりであり,少なくともこの認定にかかる被告の子会社・関連会社の収支状況は悪く,被告の投資が被告にとって利益とならなかったものといわざるを得ない。
しかも,子会社・関連会社の評価損は,97年度において合計607億円余りに上っており,また,同年度において,被告がホテル・リゾート等の関連事業損失970億円を特別損失として計上し,資本準備金等を取り崩して一掃していることからみても,被告の子会社・関連会社への投資が多額の損失を招き,被告の財務内容を悪化させる結果になったことは否定できない。
被告の経常収支の悪化という観点からみると,これらの子会社・関連会社の投資とその失敗がどの程度の影響を及ぼしたのかは必ずしも判然としないが,いずれにせよ,被告のした子会社・関連会社への投資とその失敗が被告の財務内容に少なくない影響を及ぼしたことは明らかである。
これらの投資は,当時の経済状況,被告の経営戦略その他様々な要素を勘案して行われたものと考えられるから,結果としての失敗から一概に経営判断の誤りであったとはいえないものの,当初の見込みと実際の結果との乖離が余りにも大きい例が少なくないことからすれば,十分な予測,計画の下に実行されたものであるかはすこぶる疑問であるといわざるを得ない。
(5)被告の株価,格付について
被告の株価は,90年には1000円を超えていたのが,その後は概ね安値で推移し,96年12月末には615円と低落している(第2の1(5)ア)。
また,被告の格付も,92年以降低下し,格付会社より,被告の財務内容が悪いことなどが指摘されている(第2の1(5)イ)。
株価,格付の推移は,景気の動向,航空業界の状況等被告固有の原因以外の原因もあると考えられるが,このように株価,格付が低下していることは,被告の経営状況に対する市場の不安を反映していることを示しているものといえる。
(6)経営状況悪化の原因のまとめ
ア以上(1)ないし(4)でみたところによれば,被告の経営状況悪化の原因は,営業収支の面では,イールドの低下,円高による人件費の高騰,需要を超えた設備投資,運航委託費などであり,営業外収支の面では,設備投資に伴う支払利息の増加,減価償却費などであり,また,被告の健全な企業体質を阻害する要因として,子会社・関連会社への投資の失敗があるということができる。
こうしてみると,被告の経営状況悪化の原因は,主として営業費用中の固定費にあるとはいえるが,具体的には様々な原因によるものである。
したがって,経営状況悪化に対する対策も,これらの様々な原因を踏まえて講じられるべきものである。
イ原告らの主張のように,経営状況悪化について経営者に経営責任があるとしても,そのことから直ちに人件費削減の必要性がないとか社会的相当性を欠くとすることはできない。
現に客観的に経営状況が悪化しており,その対策として人件費削減が有効であるとすれば,経営状況の更なる悪化を防ぐために人件費を削減することは経営者として当然の措置であるからである。
経営状況悪化の責任が経営者にある以上,人件費の削減が経営状況悪化に対する有効な対策であってもその措置をとることができないとすることは,経営状況の悪化に対して有効な措置をとらないままこれを徒らに放置することになり,更に重大な結果を招くことにもなりかねないのであって,そのようなことは経営に責任を負うべき経営者として許されないものである。
経営者が経営状況の悪化に対して有効な措置を講じることと経営者の経営責任の有無は別個の事柄であるというべきである。
(7)被告の構造改革施策について
ア被告は,92年6月に構造改革施策を策定して以降,様々な構造改革施策を実施してきた。
被告の構造改革施策は,「国際コスト競争力」をキーワードとし,1事業運営体制,2生産面,3コスト構造,4販売構造,5意識構造の各改革を柱とし,具体的には,1については,国内線の拡充,関連事業戦略の質的向上への転換,2については,路線のリストラ,機材利用効率の向上,外部生産資源の活用,3については,投資の見直し,人件費効率の向上,コストの外貨化,4については,イールドの向上,流通におけるプロJAL化促進のための流通戦略,5については,新しい労使関係の構築,業務運営体制の見直し等を行うものであり,その具体的な施策は被告の経営全般にわたるものであった(第2の2(1)イ)。
また,93年1月に策定した「9394年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」は,構造改革施策を前倒しし,深化させたものであり,94年1月に策定した「9495年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」も,上記「9394年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」を深化させ,第2次構造改革施策を追加した内容であり,95年1月に策定した「95年度サバイバルプランと97年度までの中期展望」も,同趣旨の内容であった(第2の2(2)アないしウ)。
さらに,96年1月,「19962000年度中期計画」を策定し,新たな構造改革「チャレンジ21」を策定,実施し,97年4月には,「19972001年度中期計画」を策定して,被告が依然として利益を出せる体質に転換できていないのは,1コスト構造上の問題,2国際線における価格競争の継続,3国内線の環境変化があるとして,「早期復配の実現と四者還元体制の確立」のために,1安全運航の堅持と良質なサービスの追求,2路線運営の効率化と事業運営体制の改革,3商品力,販売力の強化,4コスト構造の改革,5関連事業の各項目において施策を講じることとし,98年度に向けて98年3月に策定した「19982001年度中期計画」においても前回の中期計画の目標達成のための諸施策を実施するとしている(第2の2(2)エないしカ)。
この間,被告が92年度以降97年度までに順次実施した構造改革施策(第2の2(3))を具体的に経営状況悪化の原因との関係でみると,国際線,国内線の路線の見直し,機材の利用率向上施策,イールドの向上施策,流通対応の施策は売上高の増加を図るものであり,外的生産資源の活用施策,人件費効率の向上施策,投資の見直し施策,国際線路線の見直し,イールド向上施策などは,営業費用の削減やイールドの向上を図るものであり,特に投資の見直しは,需要を超えた投資を是正することにより,支払利息及び減価償却費の削減を図るものであり,また,この投資の見直し及び関連事業戦略施策は,被告の財務内容の健全化を図るものである。
イ上記アで見たところによれば,被告は,国際コスト競争力の強化を最重要課題とし,97年度まで,同時並行的に経営状況悪化の原因に対応した,経営状況を改善するための全般的な手段を講じていたということができる。
原告らは,被告は経営状況改善に有効な機材の利用効率向上策,販売手数料・特販費の削減等をとらなかったと主張ページ(25)
するが,第2の2(3)のとおり,被告は,機材の利用効率向上策,イールドの向上施策や,海外コミッションや日本地区における販売手数料の引き下げといった販売手数料削減策を行っており,これらについても一定の努力をしていたと評価できる。
特販費の削減は図られていないものの,旅行会社に実勢運賃と認可運賃の差額の割り戻しを行うことはやむを得ないものであるし,旅行会社に対するボーナスも,他社との競争上やむを得ない面があるということができる上,旅行会社の活動が被告の旅客増,収入増に結びつく面もあると考えられるから,特販費の削減がないからといって,被告が収支改善に有効な施策の実施を怠ったということはできず,原告らの主張は採用できない。
ウ上記アのように,被告は,イールドの向上や営業費用削減のためにも種々の施策を講じてはいるが,上記(2)ア,イ,(3)ア,イのように,実際問題としてイールドの向上はそれほど容易には期待できず,また大型機の導入による物的生産性の向上も既に限界状況にあり,さらに円高による人件費の増加により,91年度から93年度まで3期連続して経常損失,営業損失を計上した当時,ATK当たり人件費が外国他社に比較して高くなってしまっている(第2の3(1)ア)。
しかも,外国他社は,90年代に入ってからレイオフを含む大幅な人員削減や賃金制度の改革等の合理化策を積極的に進め,コスト競争力を強めてきた(第2の6(1))。
さらに3大空港プロジェクトの完成に伴い,被告としては,新たな投資と費用の拡大ばかりでなく,発着枠の拡大による外国他社との競争激化も予想される状況にあった(第2の1(3)エ,同2(1)ア)。
94年6月,運輸大臣の諮問機関である航空審議会に設けられた競争力小委員会は,「我が国航空企業の競争力向上のための方策について」と題する答申を行い,我が国航空企業は,低コスト体質への転換及び収益力の強化を図ることが必要であり,低コスト体質への転換を図るに際しては,固定費を中心にコストの削減を進めるべきこととしている(第2の6(2))。
このように,航空業界においては,規制緩和の進行に伴い競争が激化していくなど環境が急激に変化しつつあり,航空企業が競争力を向上させるために低コスト化を図ることは,いわば共通認識ともいえたこと,現に,他社はコスト競争力を強化しており,被告もまたコスト競争力強化のために経営全般について対策を講じようとしていたこと,被告は,経営状況悪化の原因に対する様々な対策を同時並行的に実施していたことなどからすると,被告が91年度から93年度まで3期連続の経常損失,営業損失を契機として,92年度以降とってきた構造改革施策は,人件費削減のみに固執したものとはいえず,被告がコスト競争力強化を図るために,必要かつ急務なものであったというべきである。
したがって,被告が92年度以降構造改革施策を順次実施していったことは,被告の経営状況悪化の対策として必要なものであったということができる。
エ構造改革施策実施以降の被告の経常損益は,資産売却やそれまでした減価償却期間の延長等の効果を含むものとはいえ,94年度28億円,95年度44億円とそれぞれ黒字であり,96年度には170億円の赤字を計上したものの,97年度77億円,98年度325億円とそれぞれ黒字となっている(第2の1(1)ウ,エ)。
営業損益も,95年度以降黒字に転じており,本件変更がされた前年の97年度は310億円と,87年度から89年度の黒字額には及ばないものの,3期連続の赤字となった91年度から93年度以降最高の黒字となっている(第2の1(1)ア,ウ)。
また,B/Eは下降傾向にあるものの,L/Fを上回り赤字状態が続いていたが,97年度はほぼ均衡している(第2の1(4)エ)。
このように,被告の経常収支,営業収支は一定程度改善し,B/Eも低下してきており,被告の構造改革施策が一定の効果を上げてきたことがうかがえる。
オ構造改革委員会報告では,人件費効率の向上に関し,人員効率の向上と単価水準の一層の適正化を図る施策を講じることがうたわれており,被告は,構造改革委員会報告を受けて,今後5年間の展望を見据えつつ,順次各年において構造改革施策を実施してきているから(第2の2(1)イ,(2)アないしキ),本件変更を含む98年度に実施した人件費効率向上施策もその一環ないし延長線上の施策であるということができる。
(8)被告が98年度に実施した人件費効率向上施策の必要性についてア被告のATK当たり人件費は,97年度において,被告が目標とした15円以下とはならなかったものの,15.2円とほぼそれに近い値にまで改善されてきていた(第2の2(2)イ,同3(1)ア)。
他方,被告の97年度の営業損益は310億円の黒字であり,経常損益は77億円の黒字であったものの,年度後半から急激な景気後退の影響を受けて需要が落ち込んだ関係で,計画を下回ったものであった(第2の1(1)ウ,2(2)オ,カ)。
また,被告の国際線のイールドは引き続き低下傾向にあり,消費者の低価格志向等は続いていて,収入単価の回復は容易に見込めない状況であった(第2の1(3)エ)。
さらに,97年度の金融収支は,受取利息及び配当金が47億円と大きく減少する一方で,支払利息は351億円となお高い水準にあった(第2の1(1)ア,別表I)。
これらのことからすると,被告の経常収支は未だ営業収支で金融収支をまかなうに至っておらず,被告の経営体質は,景気の動向等の想定を超える事態に十分対応できるかどうかの観点からは,十分に強化されたとはいえない状況であったもので,被告の経営体質をより強化するという観点からは,被告が98年度に人件費効率向上施策を実施する必要はあったということができる。
イしかし,上記アのとおり,ATK当たり人件費はかなり改善されてきていること,被告の人件費は,委託費用中の人件費相当額分を含んでないとはいえ,98年は,91年対比,95年対比で,欧米他社ではいずれも1を超えているのに,1を切っており(第2の5(2)),営業費用中の人件費構成も欧米主要航空会社と比較して低い状態が続いていること(第2の1(4)イ)からすれば,その必要性はこれまでと比べれば,必ずしも高いものとはいえない。
ウ原告らは,就業規則改定の必要性の判断の対象となる事実は,その改定当時ないしその直前に会社が置かれている経営状況の下での必要事情であり,それより前の必要性に関する事情は,当該変更の必要性を基礎づけるものとはならない旨主張する。
確かに,就業規則変更の必要性は,変更時の会社の経営状況を下に判断されるべきであり,変更時の会社の経営状況が順調であるにもかかわらず,それ以前に遡って過去に経営状況が悪化していたことを理由に就業規則の変更をした場合には,その必要性を欠くものというべきである。
しかし,98年度に被告が人件費効率施策を実施した際において,その直前の96,97年度の被告の経営状況は,経常損益,営業損益とも黒字であったものの,これは,資産売却や既に実施した減価償却期間の延長等の効果を含んでいたものであるから,未だ十分に回復していないといえるものである。
また,被告のイールドの低下はなお続いており,3大空港プロジェクトの完成にともない,投資や費用の増加,さらなる国際競争の激化が予想されていたのであって,被告として,競争力を向上させるために,一層の低コスト化を図る必要があったというべきである。
そして,被告が96,97年度においても,引き続き経営悪化の様々な原因を踏まえた様々な構造改革施策を同時並行的に実施していたことを併せ考えれば,被告が98年度において人件費効率施策を講じる必要性はなおあったものというべきである。
また,93年から98年にされた賃金改定は,上記(7)オのとおり,92年度以降被告が順次実施した人件費効率向上施策の一環ないしその延長線上の施策としてされているから,それぞれがその都度完結しているとの原告らの主張も採用できない。
(9)本件変更の必要性について
ア本件変更当時の被告の経営状況からしても,経営状況が一定程度改善してきたからといって,本件変更をしなければならない必要性があったといえることは上記(8)アのとおりである。
被告は98年度に7期ぶりに復配を実現しているが,これは,97年度に資本準備金等を取り崩したことから,株主の理解を得るために行ったものであるし(第2ページ(26)
の1(1)エ),98年3月にした98年度以降の被告の利益予測(経常収支で98年度200億円,99年度300億円,00年度400億円の黒字等。
第2の2(2)カ)も予測の域を出ないから,これらのことから被告が人件費効率向上施策の一つである本件変更をする必要性がなかったとまではいえない。
イ被告が人件費以外にも被告に赤字をもたらしている様々な原因について必要な施策を講じてきたことは上記(7)アのとおりであり,被告がこれらを放置して安易に人件費削減の方法をとったとはいえない。
2本件変更の内容の相当性について
(1)本件変更の理由について
ア被告は,93年度にそれまで長大路線に乗務する者について路線毎に編成に応じて定額で支給していた暫定手当を廃止し,代わりに,乗務時間の長さに応じて支払われる長時間乗務手当を新設している(第2の4(2),(3))。
長時間乗務には,相応の負担が伴うものであるから(第2の4(1)イ),この長時間乗務手当は,暫定手当と同様,長時間乗務による負担を緩和するための対価措置ということができ,路線別に編成に応じて定額であった暫定手当とは異なり,長時間乗務の時間に応じて長時間乗務手当を支給するというもので,長時間乗務に対する配慮という観点からは,より合理的なものに改めたということができる。
このように,長時間乗務手当は,乗務そのものに対する対価である乗務手当(時間当たり単価相当額の65時間分),機長を管理職として扱うことから一般職乗務員には一定の乗務時間(65時間)を超えた場合に支払われる手当を支払わない代わりに支給される管理職乗務調整手当(時間当たり単価相当額の15時間分。
第2の4(1)ア,(3)ウ)とはその性質を異にするものであるから,原告らの一人当たり平均乗務実績が60時間にも満たない(第2の5(1)イ)からといって,そのことは,乗務手当,管理職乗務調整手当の見直し理由とすることはともかく,長時間乗務手当の見直しをする理由とはならない。
イ被告は,93年に長時間乗務手当を新設するに際し,機長の長時間乗務手当の対象となる時間換算率について,「マルチ編成の場合休息時間(乗務時間の3分の1)の2分の1を差し引き,6分の5とした。
客室乗務員の場合は,12時間のブロックタイムで休息時間を2時間として,休息時間の2分の1を差し引き12分の11とした上,組合と協議して決めた。」旨説明している(第2の4(3)イ)。
しかし,本件変更時において,被告は,客室乗務員については従前の換算率,すなわち,休息時間の2分の1を差し引くという方法を維持しているのに対し,機長を含む運航乗務員については休息時間の全部を差し引くとしており(第2の4(4)イ(ア)),休息時間の差し引きについての取扱いは両者の間で整合性を欠いたものとなっている。
これにつき,被告は,運航乗務員の場合は,編成に応じた換算率を乗務時間に乗じることとしているのに対し,客室乗務員の場合は編成による差はなく,編成により休息時間に差が生じないことから両者の取扱いを異にすることに合理性がある旨主張するが,被告が長時間乗務手当の新設に当たってした説明は,編成を踏まえた上でのものであること(第2の4(3)イ)からすれば,本件変更時の被告の説明(第2の4(4)イ(ア)が説得的であるとはいえない。
賃金改定の目的が人件費水準の適正化にあり,その目的に合わせて合目的的,合理的に見直すことは被告主張のとおりであるにしても,運航乗務員及び客室乗務員について,このように同じく時間換算率を基礎にして長時間乗務手当を支給しながら,その換算率の取扱い,根拠の説明に整合性ないし説得力を欠くことは,見直しの基準が合目的的,合理的であることに疑いを抱かせるものである。
ウ被告は,本件変更において移行措置を廃止した。
被告は,これにつき,移行措置が長時間乗務手当の枠組みと整合しないとしている(第2の4(4)イ(イ))。
しかし,移行措置は,93年11月にした勤務基準改定による効率向上を考慮して定められたものであり(第2の4(3)イ),このことは本件変更の前後を通じて変わりはないから,被告の挙げる理由は移行措置を廃止する理由として十分であるとはいえない。
(2)本件変更による不利益の程度・内容について
ア本件変更により原告らが受けた不利益の内容は,第2章第1の3のとおりであり,中には月額20万円ないし30万円,年額にして200万円ないし300万円の減額となる者もいる。
原告らの一人平均年減額額は137万円強である(第2の4(5)ア)。
本件変更の暫定措置により時間換算率が据え置かれる代わりに長時間乗務手当の単価が2分の1とされているが,これによっても,長時間乗務手当の算出基準になる乗務手当単価そのものが約30パーセント下げられているため,長時間乗務手当を2分の1とする改定と併せ,上記のとおり少なくない減額となっている。
また,将来暫定措置が廃止され,時間換算率の変更が行われれば,額自体が減るとともに,シングル編成のほかは,マルチ編成の場合は13時間30分以上,ダブル編成の場合は18時間以上,それぞれ乗務しないと長時間乗務手当の支給は受けられなくなるが,現在被告の路線において,前者の場合は2便のみであり,後者の場合は路線が存在しないから(第2の4(5)ア),その不利益はさらに大きくなる。
本件変更前,管理職長時間乗務手当の支給を受ける機長のうち,支給月額3万円未満の者が過半数であったこと,被告の判断如何により管理職長時間乗務手当の支給対象者となるか否かが変わること(第2の4(5)ア)を考慮しても,この不利益の程度は少なくないというべきである。
なお,長時間乗務手当の支払対象となる勤務に就いている機長も被告の指定する機種・路線室によっては,その乗務に就かなくなることがあり,その場合は,長時間乗務手当を受けられないことになるが(第2の4(5)ア),そのことは本件変更の前後を通じて同様であるから,そのことを理由として原告らの不利益が消長を来すとはいえない。
イ被告では,本件変更により,一般職及び管理職運航乗務員の長時間乗務手当の原資は年間約12億円減少した。
長時間乗務手当の改定による費用削減額は,98年度で,同年度の営業費用1兆1328億円の約0.1パーセントに当たり,事業収入18億円の増加に相当する(第2の4(5)イ)。
本件変更当時,機長の年収は,国民年収分布から見て高い水準にあり,本件変更後においても機長の年収は約2900万円強である(第2の5(1)ア)。
なお,外国他社の機長との収入比較は,欧米主要航空会社では,全ての勤務等を乗務時間に換算して乗務手当単価を掛けて賃金を支払う賃金制度と,全ての勤務等を乗務時間に換算して月間の労働時間制限を行う勤務制度とが複合した「クレジットアワー制度」をとっており,被告と賃金体系を異にしているし(第2の5(1)ア),年収の多寡は勤務実態とも関係するから,単純に比較するのは困難である。
他方,被告において,地上管理職の年収は,年齢により1100万円台ないしそれ以下,客室乗務管理職も同様に1400万円台ないしそれ以下であり,運航乗務管理職である機長と比べて相当低くなっているが(第2の5(2)),それはそれぞれの職種に応じた仕事及び責任の内容によるものであるから,そのことから機長の年収が高すぎるとはいえない。
しかし,被告の管理職の人件費は,被告の試算によれば,92年度を100とした場合,97年度は,地上職が87,客室乗務職が88となっているのに対し,運航乗務職は94であって(第2の3(2)ウ(エ)),その減額割合は運航乗務職が最も少ないから,この点では,他職種の変動,職種間バランスを考慮する必要があったとの被告の指摘にも正当なところがある。
なお,欧米航空会社と比較した場合,96年度実績において,地上職と運航乗務職との一人当たり人件費の賃金比率は被告のほうが近接しているが(第2の5(2)),欧米航空会社と被告の地上職の職務内容は必ずしも同一とはいえないから,このことから,職種間バランスを考慮する必要がなかったとはいえない。
ウただし,上記イの機長の年収額からすれば,上記アの本件変更により原告らが受ける管理職長時間乗務手当の減額額(多い者で年額200万円ないし300万円。
原告らの一人平均年減額額は137万円強)は,比率的にみれば多いとはいえないとしても,その絶対額は少なくない金額である。
そして,これによって職種間バランスにどのような影響が生じたかも必ずしも明らかでない(管理職長時間乗務手当の支給を受ける機長は機長の全員ではないし,その受給額ページ(27)
も各人によって異なるものである。)し,長時間乗務手当は長時間乗務に対する対価であり,他の手当とは性質を異にするものであることも併せ考えると,この職種間バランスの是正を重要視することも適当とはいえない。
(3)代償措置の有無について
被告では,98年4月の賃金制度の改定により業績評価制度が導入されて,業績加算手当が新設されている(第2の3(2)エ(ア))。
しかし,同手当は,それまでの労使間協議がこの年に整って導入されたもので(第2の3(2)エ(ア)),本件変更をしたことの代わりとして新設されたものではない上,全職種に共通するものであるし,機長のうち高い評価を受けた者のみが最大0.2か月分の業績加算手当を受けるにとどまるもので(第2の3(2)エ(ア)),長時間乗務手当の支給対象となる機長すべてが当然にその対象となるものではないから,この業績加算手当の新設が本件変更の代償措置となるものとはいえない。
なお,一般職運航乗務員についてされた就労時間による調整施策(第2の3(2)エ(イ))b)は,管理職運航乗務員である機長とは関係がないから,これも代償措置となるものではない。
(4)労働組合との交渉経緯について
被告は,本件変更に先立ち,本件変更に関連して,機長のすべてを組合員とする機長組合と22回に及ぶ交渉,折衝を行い,23種類に及ぶ資料を提示している(第2の3(3)イ,同4(4)エ)。
このことは,被告として,本件変更について機長組合の理解と協力を得るべく努力したものと評価することができる。
しかし,機長組合は,人件費をねらい撃ちにした費用削減策であるなどとして反対し,結局機長組合の同意を得るに至らなかったものであるが(第2の3(3)ア,同4(4)エ),被告がそれまで人件費効率向上施策以外にも様々な構造改革施策をとってきたとはいえ,賃金を生活の糧とする労働者からみれば,管理職長時間乗務手当の削減を含む賃金の削減に反対することもまた無理からぬところであるから,機長組合が本件変更に同意しなかったからといって,これを非難することもできない。
なお,被告において従業員の約6割を組織する全日航労組は,98年度の人件費効率施策についての実施に際し,本件変更について意見は差し控えるとしており(第2の3(3)ウ),本件変更に関知しない態度を示している上,同組合は本件変更について利害関係を有する機長を組織していないから,同組合の態度を考慮する意味は乏しい。
3本件変更の合理性について
本来,就業規則の不利益変更は,原則的にはこれに同意しない従業員を拘束することはなく,就業規則の不利益変更に合理性があってはじめてこれに同意しない従業員に対してもその効力を及ぼすことができるもので,就業規則の不利益変更が従業員を拘束するのは例外的なものである(第1の1)。
この原則に加え,以上みてきたように,本件変更当時,被告において本件変更をする必要性はあったものの,その程度は必ずしも高いものとはいえないこと,本件変更時における被告の本件変更についての説明,とりわけ客室乗務員と運航乗務員とで時間換算率を違える取扱いとすることについての説明が説得性を欠いていたこと,本件変更により原告らが被る不利益は,原告らの年収が高額とはいえ,多い者で年間200万円ないし300万円の収入減となり(原告らの一人平均年減額額は137万円強),少なくない額であること,本件変更時に本件変更に伴う代償措置がとられたとはいえないこと,本件変更当時,被告と外国他社との人件費コストにも大きな差があるとはいえないことなどの諸事情を総合勘案すると,本件変更に合理性があったとすることはできないと解するのが相当である。

第4結論

以上によれば,本件変更は原告らに効力が及ばないものといわざるを得ないから,原告らは,現実に支給された管理職長時間乗務手当と本件変更がされなかったとした場合に支給されるべき管理職長時間乗務手当との差額を差額賃金として請求できるというべきであり,この支払を求める原告らの請求は理由がある。
なお,本件は賃金請求ではあるが,上記第3の2(2)イの機長らの年収額からすれば,原告らの認容額について仮執行宣言を付するほどの必要性を認めるには至らないから,原告らの仮執行宣言の申立ては却下することとする。
よって,主文のとおり判決する。

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